誰もが一度は口にしたことがある、日清シスコのロングセラー菓子「ココナッツサブレ」。しかし2008年当時、この看板商品が大手量販店のわずか15%の店頭にしか並んでいなかったという驚きの事実をご存じでしょうか。当時の売り場では、集客のための「安売り特売品」としての扱いがメインだったのです。セールが終われば棚から消えてしまう、そんなもどかしい状況を劇的に変え、売上を11倍にまで跳ね上げた仕掛け人こそが、営業企画部長の伊藤智樹さん(50)です。
SNSでも「いつの間にかお菓子の定番棚に定着していた背景に、こんなドラマがあったとは」「11倍は凄すぎる」と、その手腕に驚きの声が上がっています。伊藤さんが挑んだのは、特売品から「定番品」への格上げでした。定番品とは、スーパーなどの棚に年間を通じて常に陳列される商品のことです。一度ファンになった消費者が、いつでも足を運べば買える状態を作ることは、メーカーにとっても小売店にとっても、安定した利益を生み出すための極めて重要な戦略となります。
「40年以上も愛される商品には、必ず売れる理由がある」。そう確信していた伊藤さんですが、現場のバイヤーとの意識のズレに直面します。なんと、ココナッツサブレを食べたことがないバイヤーさえいたのです。そこで伊藤さんは「扱っていない店にとっては、ロングセラーも新商品と同じ」と割り切り、まずは実際に食べてもらうことから始めました。どんなに優れた実績を持つ商品であっても、先入観を捨てて初心に帰る姿勢は、現代のビジネスパーソンにとっても深く共感できるポイントです。
バイヤーから「美味しい」と言われても、すぐに契約を急がないのが伊藤さんの真骨頂です。かつて他社での菓子営業時代に、6年間毎週欠かさず店舗を回り続けた「ご用聞き」の経験が、ここで大きな武器となりました。伊藤さんは再び泥臭く店舗を回り、陳列を手伝いながら信頼関係を構築していったのです。こうした地道なコミュニケーションこそが、デジタル化が進む現代において、競合他社に打ち勝つために最も必要とされる「人間力」なのだと強く実感させられます。
地道な努力は実を結び、2008年に15%だった店舗カバー率は、2010年には80%へと急拡大を遂げました。さらに2015年までの間に、シリーズ3商品の売上は11倍という驚異的な数字を記録したのです。現在、伊藤さんは営業企画部長として、若手へそのノウハウを伝承しています。彼が説くのは「当たり前プラス丁寧」の精神です。メールの後に電話を一本入れる、見積書の重要箇所に線を引くといった小さな配慮の積み重ねが、ビジネスでの信頼をより強固なものにします。
「次も会いたい」と思わせるために、商談の最後に次の提案の「さわり」だけを伝えて期待感を持たせるテクニックなど、明日から真似できる知恵が詰まっています。数々の売り場を見続けてきた伊藤さんは、次なる目標として「主力商品を100年ブランドに育てること」を掲げています。消費者に寄り添い、現場を愛し続けるこの情熱があれば、ココナッツサブレが100年後も愛される国民的お菓子であり続けることは、きっと間違いないでしょう。
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