オフィスでの仕事中、傍らに置いたコーヒーを少しずつ時間をかけて楽しむ「ちびだら飲み」というスタイルが定着しています。2019年4月2日に満を持して登場したキリンビバレッジの「ファイア ワンデイ ブラック」は、まさにこの現代的な飲用シーンに革命を起こしました。先行する競合他社がひしめく市場において、後発ながらも圧倒的な支持を集め、発売からわずか半年で5000万本という驚異的な販売数を記録したのです。
SNS上では「仕事中にちょうどいいサイズ感」「最後まで味がぼやけないのが嬉しい」といった絶賛の声が相次いでいます。開発の指揮を執った大竹野晋平さんは、市場への参入を期待する周囲からの熱烈なプレッシャーを感じていたといいます。そこで彼らが導き出した答えは、他社を圧倒する600mlという大容量でした。一般的な500mlでは少し物足りないと感じていたユーザーの潜在的な不満を、見事に解消したことが躍進の鍵となりました。
AIが証明した「最後まで美味しい」の科学
大容量化を実現する上で最大の壁となったのは、時間の経過とともに風味が損なわれてしまうという課題でした。長い時間をかけて飲むからこそ、最後の一滴まで淹れたての満足感を維持しなければなりません。そこで開発チームは1000本を超える試作を敢行しました。ここで強力な助っ人となったのが、東京・港区に拠点を置くAISSY(アイシー)株式会社が提供する、AI(人工知能)を活用した味覚センサーシステムです。
AI味覚センサーとは、人間が感じる「甘味・塩味・酸味・苦味・旨味」を数値化し、客観的に分析する最先端技術を指します。このシステムを用いることで、コーヒーがぬるくなった際の変化を精密に検証し、どんな温度帯でも飽きのこない絶妙なバランスを追求しました。伝統的な直火焙煎のこだわりと最新テクノロジーの融合は、単なる「量が多い」だけの商品ではない、本物志向の味わいを生み出すことに成功したのです。
細部に宿るこだわりと大人世代への配慮
デザイン面でも、スタイリッシュな銀色のタンブラーを彷彿とさせるパッケージを採用し、40代から50代の層が気兼ねなく手に取れる工夫が凝らされています。また、飲み残しが目立つことを気にする繊細な消費者の心理を汲み取り、ラベルをボトルの底まで覆うという細やかな配慮も光ります。こうした「かゆいところに手が届く」設計が、当初のターゲットを超えて若年層にも波及し、2019年11月中旬には6500万本の大台を突破しました。
一編集者の視点として、このヒットは「AIによる客観性」と「人間味のある細部への配慮」が見事に共鳴した結果だと感じます。データで美味しさを証明しつつ、消費者がふと感じる小さな恥ずかしさや物足りなさを解決する姿勢は、ビジネスにおける勝利の方程式と言えるでしょう。単なる喉を潤す道具ではなく、働く人々の1日に寄り添う「相棒」としての地位を確立したこの商品は、今後も市場を牽引し続けるに違いありません。
コメント