農業の現場で今、大きな変革の風が吹き始めています。農林水産省は、これまで紙ベースや部署ごとの個別管理が当たり前だった農業行政のデジタル化を推進し、新たな時代の幕開けを告げようとしています。それが「農業デジタルトランスフォーメーション(農業DX)」と呼ばれる一大プロジェクトです。
DXとは、IT技術を浸透させることで人々の生活や社会をより良い方向へ変革することを指しますが、まさに今の農業は、自動運転農機の導入や収穫管理ソフトの活用など、デジタル技術と親和性の高い産業へと進化を遂げているのです。
この改革の大きな柱となるのが、人工衛星データを駆使した「農地のデジタル地図」の作成です。これまで市町村の農業委員会や地域農業再生協議会など、様々な組織が目的別にバラバラに管理していた農地の所在地、所有者、耕作者といった情報を、全国の約3000万区画を網羅する「筆ポリゴン」という単位で一元化します。これにより、行政職員が組織の壁を越えて農地情報を即座に共有できるようになります。
業務効率化が農業の規模拡大を加速させる
この取り組みは、単なる事務の効率化にとどまりません。現場で農地調査を行う職員の負担軽減はもちろんのこと、規模拡大を目指す意欲的な農家にとって非常に大きな追い風となります。現在、日本の農地は20年間で1割も減少しており、農業者の高齢化に伴う遊休農地の増加が懸念されています。しかし、どこにどのような農地があり、何が作られているかが可視化されれば、農地集約の計画をこれまで以上に精密かつ迅速に立てられるようになるでしょう。
実際にこの動きについては、SNSでも農家の方々や地方自治体職員を中心に注目が集まっています。「紙の書類のやり取りから解放されるのはありがたい」「効率化された分、農業経営そのものに時間を割きたい」といった期待の声が多く聞かれます。欧州連合(EU)でも先行しているように、デジタル化による補助金交付のための現地調査の労力削減は、世界的な潮流と言えるでしょう。
行政手続きのオンライン化で「つながる農業」へ
さらに農林水産省は、農家の行政手続きを劇的に変える「共通申請サービス」の運用も開始します。農家一人ひとりにIDを付与し、自宅のパソコンからオンラインで申請が完結できる仕組みです。審査状況もリアルタイムで把握できるため、不透明な待ち時間からも解放されるはずです。このサービスは2021年度からの本格運用を目指しており、まずは一部の稲作農家向けの補助金からデジタル対応が進められています。
私個人としては、この改革を単なる「事務の簡素化」で終わらせてはならないと感じています。農業という現場の知恵とデジタルの力が融合することで、情報の非対称性が解消され、次世代の農業経営者が挑戦しやすい土壌が生まれると確信しています。縦割りの弊害を打ち破るこの挑戦が、日本の農業を力強くアップデートしてくれることを期待せずにはいられません。
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