2020年1月13日、惜しまれつつもひとりの才人がこの世を去りました。評論家として深い洞察と独特の文体で多くの読者を魅了してきた坪内祐三氏が、急性心不全のため61歳という若さで逝去されたのです。突如として飛び込んできたこのニュースに、出版業界や文学ファンからは驚きと悲しみの声がSNSを通じて瞬く間に広がっています。「もっと読みたかった」「文学の大きな灯火が消えてしまった」といった追悼の声が相次いでおり、彼の残した足跡の大きさを改めて実感させられます。
坪内氏は、月刊誌「東京人」で編集者としてのキャリアをスタートさせました。そこで培われた視点は、後の評論活動における大きな礎となります。のちにフリーの評論家へ転身してからは、近現代の作家たちを丹念に掘り起こす緻密な仕事で知られるようになりました。特に、夏目漱石や正岡子規といった文豪たちの若き日々を克明に描き出した『慶応三年生まれ 七人の旋毛曲り』は、講談社エッセイ賞を受賞する名著です。ここでの「旋毛曲り(つむじまがり)」という表現は、物事を素直に受け入れず、捻くれた視点を持つ人を指す言葉ですが、彼はそれを親愛の情を込めて解釈し、等身大の作家像を浮かび上がらせました。
街と文学を繋ぎ続けた編集者・評論家の矜持
彼の評論には、単なる資料の引用にとどまらない、街を歩き、文献を耽読する彼自身の「呼吸」が感じられます。私自身、彼の文章に触れるたびに、時代を超えて文学者たちの鼓動が聞こえてくるような感覚を覚えました。それは単なる批評ではなく、かつてを生きた人々への深い共感と、現代に対する鋭い眼差しが同居していたからではないでしょうか。数多くの雑誌連載を精力的にこなしたその姿勢は、まさに「書くこと」への強い執着と愛情そのものであったと感じます。
なお、坪内祐三氏の告別式は、2020年1月23日の午前9時30分より、東京都渋谷区西原2の42の1にある「代々幡斎場」にて執り行われる予定です。喪主は妻の文子さんが務められます。一つの時代を作った評論家の逝去は、私たち読者にとって計り知れない喪失です。しかし、彼が紡ぎ出してきた数々の著作は、これからも変わることなく本棚の中で生き続け、私たちに文学の楽しさを教えてくれるはずです。心より、ご冥福をお祈りいたします。
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