いま、中国地方の経済界で静かなる波紋が広がっています。それは、長年地域を支えてきた老舗企業までもが、「粉飾決算」という名の嘘によって、ある日突然、経営破綻へと追い込まれるケースが相次いでいるからです。東京商工リサーチ広島支社の調査によれば、2019年には粉飾を主因とする倒産が10件も確認され、2020年に入ってもすでに1件が発生しています。
ここでいう粉飾決算とは、企業が実際よりも業績を良く見せるために、帳簿上の数字を操作する不正行為を指します。例えば、実際には売れていない在庫を資産として計上したり、借金の額をわざと少なく記載したりすることです。この不正が金融機関に露呈した瞬間、これまで優良企業として信頼を寄せていた銀行からの融資が即座にストップし、資金ショートを起こして倒産に至るという悲劇が繰り返されているのです。
老舗企業を襲った「寝耳に水」の衝撃と教訓
象徴的な事例となったのが、2020年1月6日に民事再生法の適用を申請した、松江市の「玉屋」です。1953年創業の老舗企業であり、一見すると安定した経営を続けているように見えたことから、金融機関も長年「正常債権」として扱い、信頼を置いていました。しかし、2019年12月に明るみに出たのは、実に約35年にもわたる不正会計の事実でした。
架空の資産計上などで実態を隠蔽し続けた結果、負債額は約60億円にまで膨れ上がりました。この事態にSNS上でも「これほどの老舗が35年も嘘をついていたとは」「金融機関の審査体制はどうなっていたのか」といった驚きと不安の声が噴出しています。30年以上の長きにわたり、なぜその不正を見抜けなかったのか。この問いは、いまや地域金融機関全体に突きつけられた重い課題となっています。
厳しくなる審査と、変わらざるを得ない金融機関の姿勢
これまで地域金融機関は、低金利による収益悪化の中で、融資量でカバーしようと貸し出しを急いできた経緯があります。いわば、「片目をつぶって」多少の帳簿の違和感には目をつむるような関係性が存在していたのかもしれません。しかし、いまや地銀や信用金庫は、疑わしい取引先に対して「両目を見開いて」徹底的な洗い出しを始めています。
私個人としては、この変化は健全な経済活動のために不可欠なプロセスであると考えます。しかし、単に不正を暴いて融資を止めるだけでは、地域経済を疲弊させるだけです。中小・零細企業が、生き延びるために苦渋の決断として粉飾という道を選ばざるを得ない構造的背景を無視してはなりません。金融機関には、数字の整合性だけを見るのではなく、企業の事業実態を深く理解する「目」が求められているのです。
金融庁参与の森俊彦氏は、こうした状況を「金融機関が伴走型の融資をできていない証拠」と厳しく指摘しています。東京オリンピック後の景気後退が懸念されるなか、企業と金融機関の間に真の信頼関係があるかどうかが、地方経済の命運を分けることになるでしょう。ただ書類をチェックするだけではなく、経営者と膝を突き合わせて未来を語り合う「伴走者」としての役割を果たせるか。それが今の金融機関に問われています。
コメント