大手携帯キャリアであるNTTドコモの2020年3月期決算において、当初の予想を覆すポジティブな兆候が見えてきました。政府からの要請を背景に、ドコモは大幅な通信料金の引き下げに踏み切ったのは記憶に新しいところです。この大胆な施策により、同社は当初、2000億円規模の大きな減益を覚悟していました。しかしふたを開けてみると、新プランへのユーザーの移行スピードが想定よりも緩やかであることが判明したのです。結果として、減益によるマイナス影響は1700億円から1800億円程度に収まる見通しとなりました。
このニュースに対し、SNS上では「新料金プランが意外と浸透していないのは、手続きの複雑さが原因ではないか」という冷静な分析が目立ちます。さらに「料金が下がるはずなのに、なぜみんなすぐに乗り換えないのか不思議だ」といった疑問の声も上がっていました。確かに、消費者にとっては毎月の出費が抑えられる魅力的な話に思えます。それにもかかわらず、多くのユーザーが即座に動き出さなかった背景には、業界全体の構造的な変化や、消費者の心理的な要因が複雑に絡み合っていると考えられます。
そもそもドコモが2019年6月1日に導入した新プランは、端末代金と通信料金を完全に切り離す「分離プラン」という仕組みを採用しています。これは従来の「端末を2年契約すれば通信料を割り引く」という複雑な抱き合わせ販売を禁止し、それぞれの料金の透明性を高めるための公的な方針に沿ったものです。しかし、これまで馴染みのあった割引制度が消えることで、かえって「本当に安くなるのだろうか」という不安がユーザーの間に広がり、様子見のムードが強まってしまったのでしょう。
さらに、この時期はネット通販大手の楽天が第4のキャリアとして携帯電話事業に新規参入することを控えていたタイミングでもありました。これにより「もっと画期的な格安プランが登場するかもしれない」という期待感が市場に漂い、消費者が契約変更を躊躇したことも移行の初速が鈍った一因と言えます。しかし結果として、この「消費者の足踏み」はドコモにとって大きなチャンスをもたらしました。想定よりも減益幅が200億円から300億円ほど縮小し、業績に予期せぬ「資金のゆとり」が生まれたのです。
ドコモはこの浮いた貴重な資金を、未来への投資として有効活用する方針を打ち出しています。具体的には、現在も従来型の携帯電話、いわゆる「ガラケー」を愛用しているシニア層などのユーザーに対し、スマートフォンへのスムーズな買い替えを促すための強力な割引キャンペーンの原資へと充当する計画です。これにより、2020年3月期の営業利益目標である前期比18パーセント減の8300億円という計画を維持しつつ、将来の顧客基盤をより強固なものにする戦略へとシフトしています。
一見すると、新プランの普及遅れは誤算のように思えますが、これを次の成長へのステップへと昇華させるドコモの手腕は見事と言えるでしょう。かねてより同社は「今期が利益の底になる」と宣言してきましたが、今回の資金余力によって来期以降のV字回復に向けた確かな布石が打たれた印象を受けます。通信業界の激しい競争の中で、目先の減益に一喜一憂せず、スマホシフトという長期的な果実をもぎ取りにいくドコモの姿勢からは、業界の絶対王者としての確かなプライドと底力が感じられます。
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