世界中で猛威を振るい始めている新型コロナウイルスを巡り、アジア各国が緊迫した局面に直面しています。感染拡大を食い止めるための「水際対策(病原体の国内侵入を防ぐ検疫処置)」として、帰国者を特定の施設へ隔離する措置が各地で本格化しました。しかし、その内実や突飛な決定に対して、当事者や周辺住民からは悲鳴と憤りの声が噴出しているのが現状です。
オーストラリア政府は2020年1月29日、感染の中心地である中国・湖北省武漢市から退避させた自国民を、本土から1500キロメートルも離れたインド洋のクリスマス島に14日間留め置く方針を打ち出しました。隔離先として選ばれたのは、かつて不法入国した難民を収容していた施設です。事前の説明書類には優雅なジムや図書館の風景が印刷されていたものの、実際には利用できない状態が続いていると報告されています。
このあまりにギャップが大きい対応に対し、現地に滞在する女性からは「衛生面を考慮すると刑務所よりも環境が劣悪である」といった不満がメディアを通じて暴露されました。SNS上でも「人道的な配慮に欠けるのではないか」「まるで見捨てられたようだ」といった、政府の冷徹な姿勢を疑問視する拡散が相次いでいます。国民の生命を守る大義名分のもとで、手探りの隔離政策が個人の尊厳を脅かす事態へと発展しているのです。
一方、インドネシアでは2020年2月1日にジョコ・ウィドド大統領が、武漢からの帰還者を南シナ海南端のナトゥナ諸島にある軍事施設に隔離すると急遽発表しました。地方政府への打診はメッセージアプリによる一方的な通知のみだったため、地元の県知事は不快感を露わにしています。さらに、中央政府の閣僚が「住民への見返りはなく、祈りを捧げるだけだ」と発言したことで、島民の怒りに火がつきました。
現地では受け入れに反対する激しい抗議デモが連日展開されており、お互いの信頼関係が崩壊していく様子が浮き彫りとなっています。韓国の牙山市でも同様の反対運動が勃発しており、未知の感染症に対する恐怖が、地域社会の分断や深刻な軋轢を生む引き金になっている事実は否定できません。危機管理における丁寧な合意形成と、心のケアを含めた住民説明が、いかに重要であるかを痛感させられる事例でしょう。
さらに深刻な影を落としているのが、アジア経済の心臓部とも言える観光産業への大打撃です。中国政府が2020年1月27日に団体旅行の海外渡航を禁止したことで、これまで各国を潤してきた膨大な需要が一瞬にして蒸発しました。タイのバンコクにある有名な王宮周辺では、普段なら歩くのも困難なほど賑わう道路が嘘のように静まり返り、観光バスの姿も完全に消え去っています。
現地の露店商からは「1日に50個売れていたジュースが、今や5個しか売れない」という悲痛な叫びが上がっており、春節の書き入れ時を逃した影響で廃業に追い込まれる仲間も出始めました。タイにとって観光業は国内総生産(GDP=国の中で一定期間に生み出された付加価値の総額)の約2割を占める大黒柱です。今回の中国人客の激減により、約5000億円の経済損失が生じると試算されています。
こうした惨状は、外国人客の多くを中国にに依存するバリ島など、他の東南アジア諸国でもドミノ倒しのように広がっています。防疫のために航空路線を全面運休にしてビザの発給を止めるべきか、それとも経済の破綻を防ぐために门戸を開けておくべきか、各国政府は究極の選択を迫られていると言えます。命を守る防壁が経済を窒息させるというジレンマに、私たちは今、直面しているのです。
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