冬の冷え込みが厳しくなるこの季節、街中や乗り物の中でマスク姿の人を見かける機会が一段と増えましたね。今や混雑した場所でのマスク着用は、周囲への配慮を示す標準的なマナーとして定着した印象があります。しかしその一方で、最前線で働く小売業などの接客スタッフに対して、原則としてマスクの着用を禁止している企業が存在することをご存じでしょうか。顔の半分が覆われてしまうことで表情が見えにくくなり、お客様との良好な意思疎通が難しくなるという懸念がその背景にあるようです。
いわゆる「お客様は神様」という意識が根強い日本社会ならではのルールと言えますが、これにはSNS上でも様々な意見が飛び交っています。「体調不良でも休めない環境なのに接客時の着用NGは酷すぎる」「自分が客の立場なら、店員さんが風邪をひいている方が気になる」といった、従業員の健康を守るべきだという声が圧倒的です。接客の美徳を優先するあまり、働く人々の安全や防衛策が二の次になってしまう現状に対して、多くの現代人が疑問を抱き始めている様子が鮮明に浮かび上がっています。
そんな中、世界を揺るがす深刻なニュースが舞い込んできました。中国の武漢市を起点に発生した「新型コロナウイルス」の感染が急速に広がっています。この未知の病原体に対して、中国の衛生当局高官は2020年01月20日までに「ヒトからヒトへの感染が起きているのは確実である」との見解を正式に表明しました。日本の厚生労働省の公式ウェブサイトでは、当初「明確な証拠はない」と表現されていたため、この突然の発表を受けて、国内でも大きな衝撃と戸惑いが広がったのは言うまでもありません。
ここで専門用語について少し補足しておきましょう。今回問題となっている「新型コロナウイルス」とは、過去に発見されていない新しいタイプのウイルスを指します。感染すると発熱や咳、呼吸困難といった肺炎に似た症状を引き起こすのが特徴です。また、当局が認めた「ヒトからヒトへの感染」とは、感染者の咳やくしゃみによる飛沫を吸い込んだり、ウイルスが付着した手で口や鼻に触れたりすることで、別の人間に病気がうつってしまう現象を意味しており、感染症の拡大を防ぐ上で最も警戒すべき警戒信号となります。
さらに懸念されるのは、2020年01月24日から中国で大型連休である「春節(旧正月)」が始まるという事実です。この期間中には、非常に多くの観光客が中国本土から日本へ観光に訪れることが予想されます。日本政府は空港や港などの入国検疫における「水際対策」を強化し、国内へのウイルスの侵入を全力で食い止める構えを見せています。水際対策とは、感染症などの有害な病原体が国境を越えて国内に持ち込まれるのを、移動の初期段階で検査して遮断する非常に重要な防御システムのことです。
専門家の分析によると、今回のヒト・ヒト感染は家族間といった極めて距離の近い「濃厚接触」の事例に限定されているため、現時点で過度にパニックを起こす必要はないとされています。しかし、連日の報道を目にすれば、私たちはどうしても自身の身を守るための自衛策を講じたくなるのが本音ではないでしょうか。こうした社会的な不安を反映するように、2020年01月21日の東京株式市場では、ウイルス対策加工が施された高性能マスクを製造する企業の株に買い注文が殺到し、取引が急拡大する動きが見られました。
お店を営む企業にとって、訪日外国人によるインバウンド消費の恩恵は大歓迎すべき経済的チャンスでしょう。しかし、実際に現場で多様な人々と対面する接客スタッフの立場に立ってみれば、自身の感染リスクに対する不安やストレスが募るのも当然の心理と言えます。私は、このような非常事態においては、企業のブランドイメージや過剰な接客マナーよりも、従業員の命と健康を守る対策こそが最優先されるべきだと強く確信します。働く人々が安心して笑顔でいられる環境があってこそ、真のおもてなしが生まれるのです。
「純白のマスクを楯(たて)として会へり」という、かつて詠まれた野見山ひふみの切実な俳句が、令和の現代において驚くほどリアルに、そして重く心に響いてきます。経済の活性化と、個人の命を守る安全対策。この二つのバランスをどう取っていくべきなのか、私たちは大きな課題を突き付けられています。まずは私たち一人ひとりが、手洗いやうがい、そして適切な状況でのマスク着用といった基本的な予防行動を徹底し、この不穏な冬を賢く健康に乗り切っていきたいものですね。
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