スマートフォン一台で全ての金融手続きが完結する利便性から、世界中で爆発的な人気を誇る次世代の金融サービス「デジタル銀行」。その代表格としてヨーロッパのフィンテック市場を牽引してきたドイツ・ベルリン拠点の「N26」が、突如として英国市場からの完全撤退を発表し、世界中に大きな衝撃を与えています。
急成長を遂げていた注目企業が下したこの苦渋の決断は、2020年1月31日に実行された英国の欧州連合(EU)離脱、いわゆる「ブレグジット」がもたらした深刻な影響の第一歩と言えるでしょう。ネット上でも「ついにブレグジットの実害が身近なサービスに及び始めた」「お気に入りの銀行だったのにショックすぎる」といった悲痛な声が溢れ、SNSは大荒れの模様を呈しています。
2013年の創業以来、全世界で500万人を超える顧客を獲得してきたN26は、2018年11月に満を持して英国へ進出しました。すでに数十万人もの熱烈なユーザーを抱えていた同社ですが、2020年2月11日の発表によると、同年4月15日をもって英国民向けのすべての口座を閉鎖し、サービスを終了することが決定したのです。
撤退の最大の原因は、EU内で保障されていた「単一パスポート制度」という共通金融免許の枠組みから英国が外れてしまう点にあります。この制度は、EU加盟国のいずれか一カ国で銀行免許を取得すれば、個別の国ごとに複雑な審査を経ることなく、EU全域で自由に事業を展開できるという、金融機関にとって非常に画期的かつ強力な特権でした。
2016年に欧州中央銀行などから正規の免許を取得したN26は、この仕組みを利用して英国でもスムーズに営業を行ってきました。しかし、2020年末に現状維持のための「移行期間」が終了すると共通免許の効力は失われ、英国での営業を継続するには現地の金融当局から個別に新しい免許を取得し直さなければなりません。
広報担当者によると、英国専用の複雑な規制対応やシステム運営を維持することは、膨大な手続きと莫大な追加コストを伴うため、経営的な合理性を欠くと判断した模様です。今後は、主軸であるEU域内や、2019年に進出したばかりのアメリカ市場へと限られた経営資源を集中させる方針へと舵を切りました。
このニュースは、政治の決定が民間企業の革新的なサービスを阻害してしまった極めて残念な事例だと私は考えます。最先端のフィンテック、すなわち「金融(Finance)」と「技術(Technology)」を融合させたIT技術による便利な暮らしが、国境の壁によって引き裂かれる現状は、ユーザーの利益を置き去りにしていると言わざるを得ません。
一方で、ライバルである英国発のデジタル銀行「レボリュート」などは、事前に欧州の免許を二重に取得するなどして、この混乱を生き抜く備えを固めています。激動の時代において、政治的リスクを見越したスピード感のある戦略がいかに重要であるかを、今回のN26の撤退劇は私たちに強く物語っているのではないでしょうか。
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