2019年7月1日、中国の大連市で開幕した世界経済フォーラム主催の夏季ダボス会議にて、中国の有力な新興電気自動車(EV)メーカーである威馬汽車(WM Motor、ワイマチーチャ)の沈暉(シェン・フイ)最高経営責任者(CEO)が、日本経済新聞などの取材に応じました。沈CEOは、中国政府によるEV補助金の大幅な減額という厳しい経営環境下においても、「利益が一部減ったとしても、今はシェア拡大を優先する」という大胆な戦略を明らかにされました。
中国では、2019年6月からエコカーに対する補助金が2018年比で最大5割程度も大幅に減額されており、これはEVメーカーの経営に大きな打撃を与えています。この補助金は、環境に配慮した自動車の普及を促進するために国や地方政府から支給される金銭的支援策のことで、生産コストや販売価格に影響を及ぼします。すでにEV最大手である比亜迪(BYD)は、これを受けて販売価格の引き上げを決定しています。
しかし、威馬汽車の沈CEOは、大手とは「同様の戦略は取らない」と断言しました。具体的には、「値上げはしない。最も安いタイプで1台約14万元(当時のレートで約220万円)を維持する」と述べ、価格据え置きを表明しています。この決断は、同社の知名度を上げ、市場での存在感を確立するための「市場シェアの拡大」が最重要であるという、強い意志の表れでしょう。
威馬汽車がこのような戦略を取るのは、現在の中国EV市場が極めて競争が激しい状況にあるためです。いまだに50社以上の新興EVメーカーがひしめき合い、熾烈な競争を繰り広げています。例えば、上海蔚来汽車(NIO、ニオ)は、「中国版テスラ」として注目を集め、2018年にはニューヨーク証券取引所に上場しましたが、2019年6月には電池の不具合により約4,800台のリコールを発表しました。リコールとは、製品に欠陥や不具合が発見された際に、メーカーが無償で製品を回収・修理する措置のことで、消費者からの信頼に関わる重大な事態です。
こうした状況から、中国のEV新興勢の経営に対しては、市場から厳しい目が向けられ始めています。市場シェアの拡大を優先し、価格を据え置くという威馬汽車の戦略は、短期的な利益よりも、まず多くの消費者に自社の製品を使ってもらい、ブランドへのロイヤルティ(顧客の愛着や忠誠心)を高めることに重点を置いた、非常に攻めの経営判断と言えるでしょう。私個人としては、補助金が減少する中で価格競争力を維持しようとするこの姿勢は、消費者の視点に立った賢明な選択だと考えます。今後の市場の動向が非常に注目されます。
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