2019年5月30日、日本の放送史における大きな転換点とも言える法改正が行われました。改正放送法が成立し、NHKのすべての番組が、テレビ放送と同時にインターネットでも視聴可能になる道が開かれたのです。これまで「悲願」とされてきたネット同時配信がついに現実のものとなりますが、利用者にとって最も気になるのは「お金」の話でしょう。今回の決定では、ネット配信はあくまで放送の「補完業務」と位置づけられ、既存の受信契約者に追加の負担は求めないとしています。
これにより、私たちは通勤通学の電車内や外出先でも、スマホ一つでニュースや大河ドラマをリアルタイムで楽しめるようになります。SNS上では、「災害時にスマホでNHKが見られるのは安心だ」「見逃し防止に役立つ」といった歓迎の声が上がる一方で、「ネットで見られるならテレビはいらないのでは」「スマホを持っているだけで受信料を徴収される伏線ではないか」といった警戒や疑念の声も渦巻いており、世間の反応は期待と不安が入り混じっているようです。
民放が震える「7000億円」の巨大資本と、守られるべきルール
この動きに戦々恐々としているのが、民間の放送局です。NHKは年間約7000億円という莫大な受信料収入をバックにネット事業を推し進めることができますが、民放キー局の放送収入は1000億から3000億円程度に過ぎません。資本力の差は歴然としており、同じ土俵で競争になれば民放が圧迫されるのは目に見えています。日本民間放送連盟の大久保好男会長が、ネット業務の費用を「受信料収入の2.5%」に抑える上限ルールの維持を強く求めているのは、NHKの「肥大化」を食い止めるための必死の防衛策なのです。
ここで言う「補完業務」とは、あくまでテレビ放送が主役であり、ネットはそれを補助するものだという考え方です。しかし、世界に目を向ければ英国の公共放送BBCはネット配信で成功し、若年層を取り込みましたが、その結果として民放が育ちにくい環境を作ってしまいました。逆に米国では民放が強く、競争によってサービスが進化しています。日本がどちらの道を進むのか、今はまだ霧の中と言わざるを得ません。
5G時代の「公共」とは何か?なし崩しの拡大を防げ
放送法に詳しい立教大学の砂川浩慶教授は、「NHKが今後ネット業務をどう拡大していくのかという議論が全くなされていない」と警鐘を鳴らしています。確かに、次世代通信規格「5G」が普及すれば、放送と通信の境界線はさらに曖昧になり、動画配信はより身近なものになるでしょう。その時、NHKがなし崩し的に業務を拡大し、民業を圧迫するような事態は避けなければなりません。
コラムニストとして私自身の考えを述べさせていただくならば、利便性の向上は歓迎すべきですが、それは「公正な競争」と「透明性」の上に成り立つべきです。巨大な公共メディアがネット空間に乗り出す以上、その影響力やコスト構造について、私たち視聴者に対して明確なビジョンを示す義務があります。「便利になったからOK」ではなく、これからの公共放送がどうあるべきか、私たち自身も厳しい目を向けていく必要があるのではないでしょうか。
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