令和という新しい時代が幕を開けた直後、日本の雇用システムを揺るがす象徴的な出来事が明るみに出ました。2019年06月01日現在、私たちが直面しているのは、昭和から平成にかけて築き上げられた「労使の岩盤」が音を立てて崩れ始めているという現実です。
その発端となったのが、JR東日本の労働組合における組合員の大量流出でした。2018年02月には約4万6千人を数えた最大労組の組合員数が、2019年04月には約1万1千人にまで激減したのです。組織率はかつての9割から3割へ急落しており、これは単なる一企業の内部事情にとどまらない、働く人々の意識の劇的な変化を示唆しています。
「終身雇用は難しい」経済界からの衝撃的な通告
この流れは、決して偶発的なものではありません。SNS上では「高い組合費に見合うメリットがない」「個人の時間は個人で使いたい」といった、既存の組織論に縛られない若手社員たちの悲痛かつ冷ややかな声が溢れています。かつてストライキ権を武器に経営側と対峙した労働組合の姿は、もはや過去の遺物となりつつあるのかもしれません。
さらに衝撃を与えたのが、日本経済を牽引するリーダーたちの発言です。大型連休明けの2019年05月07日、経団連の中西宏明会長が終身雇用の見直しを示唆すると、続く2019年05月13日にはトヨタ自動車の豊田章男社長までもが「終身雇用を守っていくのが難しい局面」と認めました。
これらは、企業が社員の人生を丸抱えする時代の終わりを告げる「敗北宣言」とも受け取れます。政府の未来投資会議も2019年05月15日、70歳までの就業確保とセットで、副業や兼業を推進する戦略へと舵を切りました。会社に滅私奉公すれば安泰という神話は、いま完全に崩れ去ろうとしているのです。
1000万人超のフリーランスが直面する「自由の代償」
こうした中で注目を集めているのが「フリーランス」という働き方です。特定の企業や団体に専従せず、自らの技能や才覚で独立して業務を請け負うこのスタイルは、広義には日本全体で約1090万人に達すると推計されています。これは人口の約10分の1に相当する巨大な勢力です。
しかし、実態は決してバラ色ではありません。クラウドソーシング大手のランサーズの調査によれば、ここ3年間、フリーランスの人口は横ばい圏内にあります。その背景にあるのは「公正な収入が得られない」「雇用と同程度の保障がない」という切実な課題です。
実際に現場からは、「正社員と同じ扱いを求められるのに対価は低い」「口約束で報酬を増やされずに業務量だけ増やされる」といった、下請け法や独占禁止法の「優越的地位の乱用」にあたるような生々しい搾取の声が上がっています。フリーランスは自由と引き換えに、セーフティーネットのない荒野に放り出されているのが現状と言えるでしょう。
欧州に学ぶ「トランポリン型社会」への転換
では、私たちはどうすればよいのでしょうか。視線を海外に向けると、ヒントは欧州にあります。例えばスウェーデンでは、労働組合の組織率が高く、失業しても職業訓練などを通じて何度でも再挑戦できる「トランポリン型」の社会システムが構築されています。そこではホワイトカラーの労働組合が、フリーランスさえも組合員として迎え入れているのです。
日本でも変化の兆しは見えています。損害保険ジャパン日本興亜が2017年からフリーランス向けの福利厚生や所得補償保険の提供を始め、足元では毎月100人以上の新規加入があるそうです。また、公正取引委員会もフリーランス保護に向けた検討を開始しました。
私は、これからの日本において労働組合や企業が果たすべき役割は、囲い込みではなく「緩やかな連帯」の場を作ることだと考えます。企業という枠組みが溶けていく中で、フリーランスを「使い捨ての駒」ではなく「共に価値を創るパートナー」として対等に扱う倫理観が求められています。
メディアに携わる私たち自身も、働き方の変革という波の只中にいます。官民の「上から目線」の改革だけでなく、現場で働く個人の「下から」、そして組織の「横から」の声を拾い上げ、新しい時代のセーフティーネットを提言し続けることが、我々の使命であると強く感じるのです。
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