もしも今、突然の停電でエレベーターが止まり、蛇口から水が出なくなったら……。そんな都市部が抱える切実なリスクに立ち向かう、画期的な新サービスが登場しました。札幌市の電気設備工事会社「北海道電気相互」は、2019年11月13日までに、停電が発生した現場へ電源車を派遣してスポット的に電力を供給する「電気の宅配」事業を本格始動させています。
このサービスは、1戸あたり年間1万円程度の契約料で、万が一の事態に備えるというものです。SNS上では「タワマン暮らしには必須の保険」「水さえ出ればなんとかなるから助かる」といった、都市生活者からの期待に満ちた声が広がっています。特に高層難民化が懸念される現代において、この機動力あふれる電力供給は、まさに時代のニーズを射抜いたサービスといえるでしょう。
サービスの対象はまず札幌市とその周辺30キロ圏内からスタートしますが、今後は旭川市や函館市、釧路市などへのエリア拡大も計画されています。派遣される電源車は大小6台が用意されており、その性能は1日で最大40箇所を回れるほど。スマートフォンの充電なら200台分をまかなえるパワーを秘めており、災害直後の情報収集に欠かせないモバイル端末の維持にも心強い味方となります。
高層マンションの「盲点」を突くスピード復旧
なぜ今、これほどまでに「電気の宅配」が注目されているのでしょうか。その背景には、都市部特有のインフラ事情があります。高層ビルでは、屋上などのタンクに貯めた水を各部屋へ届けるために「給水ポンプ」を電気で動かしています。そのため、たとえ水道管が無事でも、停電が起きれば一滴の水も出なくなる「二次被害」が発生してしまうのです。
北海道電気相互が提案するのは、すべての電力を復旧させることではなく、生活に不可欠な「最低限のインフラ」を迅速に取り戻すことです。例えば、マンション1棟の貯水タンクを満タンにするために必要な2〜3時間の電力供給を集中して行います。これにより、各家庭で飲料水や生活用水を確保できるため、パニックを未然に防ぐことが可能になります。
特筆すべきは、移動中にもタイヤの回転を利用して発電できる電源車の効率性です。2018年9月6日に発生した北海道胆振東部地震や、2019年10月の台風19号では、多くのタワーマンションが機能不全に陥りました。こうした教訓を活かし、自走しながらエネルギーを蓄え、次々と現場を駆け抜ける姿は、まさに都市を支えるラストワンマイルの守護神です。
医療現場やコスト面でも光るメリット
このサービスの価値は、マンションだけにとどまりません。医療機関にとっても非常に魅力的な選択肢となります。病院の自家用発電機は、生命維持に直結する医療機器へ優先的に電力を回さなければなりません。そこで「電気の宅配」を利用すれば、後回しにされがちなエレベーターや清掃機器などの生活動線に電力を供給でき、施設全体の運用がスムーズになります。
自前で数百万円もする大型発電機を導入・維持する負担に比べれば、専門家が接続から供給まで一貫して請け負う宅配サービスは、コスト面でも管理面でも圧倒的にスマートです。私は、この事業が「所有から共有へ」という現代のトレンドを防災分野に持ち込んだ、極めて合理的で公共性の高いビジネスモデルであると確信しています。
2019年11月現在、相次ぐ自然災害によって私たちの防災意識はかつてないほど高まっています。インフラが復旧するまでの「空白の時間」をいかに埋めるか。北海道電気相互が踏み出したこの一歩は、電力を「待つもの」から「呼び寄せるもの」へと進化させ、都市に住む私たちの安心感をより強固なものにしてくれるでしょう。
コメント