2019年11月14日、日本の安全保障を揺るがす重要な法案が衆議院を通過しました。それは、原子力やITといった国家の根幹を支える企業への出資を規制する「外為法(外国為替及び外国貿易法)」の改正案です。このニュースが流れるやいなや、SNSや市場関係者の間では「日本株の魅力が損なわれるのではないか」という不安の声が急速に広がっています。
そもそも今回の改正は、ハイテク技術の流出を極端に警戒するアメリカの動きに足並みをそろえたものです。特に中国の台頭を念頭に置いた安全保障上の措置といえますが、政府内での十分な議論を経ないまま、数カ月という異例のスピードでまとめられました。この「突貫工事」ともいえる強硬な姿勢が、投資家たちの不信感を招く一因となっているのでしょう。
「1%の壁」がもたらす投資家への重圧
最も大きな変更点は、外国人投資家が日本企業の株式を取得する際、事前に国へ届け出る基準が「10%以上」から「1%以上」へと大幅に引き下げられることです。わずか1%の取得で手続きが必要となれば、機動的な投資は事実上不可能になります。これに対し、財務省は安保に無関係な運用会社を対象外とする緩和策を提示しましたが、現場の混乱は収まりそうにありません。
ここでいう「事前届け出」とは、いわば国の許可待ち状態を指します。市場では「手続きが煩雑になれば、投資家は日本市場を避けて他国へ資金を移すだろう」という冷ややかな見方が大勢を占めています。アベノミクスを牽引してきた海外マネーが一度流出してしまえば、再び呼び戻すのは至難の業です。自由な取引こそが市場の命であることを、今一度再認識すべきではないでしょうか。
さらに懸念されているのが、政府が作成する「規制対象企業リスト」の存在です。どの企業が規制対象なのかを透明化するための施策ですが、市場の一部では「これは格好の空売りリストになる」と皮肉られています。規制対象に指定された銘柄は買い手が付きにくくなるため、それを狙い撃ちした「空売り(株価下落を見越して株を売る手法)」の標的になるリスクがあるのです。
企業統治の退行と「物言う株主」への影響
今回の改正は、企業統治(コーポレートガバナンス)を後退させる懸念も孕んでいます。届け出免除の条件には「役員選任などの株主提案を行わない」といった項目が含まれており、これが経営改善を促す「アクティビスト(物言う株主)」の活動を封じ込める手段になりかねません。不透明な経営を正す株主の権利が縛られれば、結果として企業の成長を阻害する恐れがあります。
また、IPO(新規株式公開)を目指すベンチャー企業からも悲鳴が上がっています。機密性の高い個人情報を扱うITスタートアップなどは、外為法の網にかかる可能性が高く、海外から広く資金を集めることが難しくなるかもしれません。「技術を守る」という大義名分は理解できますが、それが若くて勢いのある企業の芽を摘む結果になっては、本末転倒と言わざるを得ません。
麻生太郎財務相は2019年11月19日現在、負担軽減策を検討するとしていますが、2020年春の施行に向けて細部を詰める作業は難航が予想されます。安全保障と経済活性化。この二律背反する課題に対し、日本政府は投資家を納得させるだけの明確なビジョンを示す必要があります。技術を守りつつ、世界から愛される市場であり続けるための、真に知的な運用が今まさに問われています。
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