世界シェア首位に君臨するタイヤ界の巨人、ブリヂストンが大きな転換期を迎えています。2019年11月29日、東京都内で開かれた会見にて津谷正明会長兼CEOは、従来の「タイヤを売って終わり」というビジネスモデルからの決別を宣言しました。これからはすべての事業を、顧客の困りごとを解決する「ソリューション型」へと進化させていく方針です。
「ソリューション」とは、単に製品を届けるだけでなく、IT技術などを駆使して顧客の課題を根本から解決する仕組みを指します。ブリヂストンはこれまでも航空機や鉱山用車両といったプロの現場で、タイヤの摩耗状況を管理するなどのサービスを展開してきました。今後はこの流れを、私たちが日常で使う乗用車向けのタイヤにも波及させていく構想を掲げています。
SNS上では「ついにタイヤもサブスクやサービス化の時代か」「ハードだけでは生き残れない厳しい現実を感じる」といった、驚きと納得が入り混じった声が上がっています。多くのユーザーが、タイヤという「モノ」の価値が「体験」や「安心」へとシフトし始めていることを敏感に察知しているようです。
1100億円の巨額買収が示すデジタルへの本気度
この変革を象徴するのが、オランダの「トムトムテレマティクス」の買収です。ブリヂストンは約1100億円という巨額を投じ、車両データ管理のスペシャリストを傘下に収めました。「テレマティクス」とは、自動車と通信システムを組み合わせてリアルタイムで情報をやり取りする技術のことで、走行ルートや燃費、運転のクセなどを細かく分析できます。
現在、このサービスは欧州で約100万台の車両に導入されています。津谷CEOは、このネットワークがさらに拡大することに強い期待を寄せています。タイヤの状況だけでなく、車両全体の動きをデータとして把握することで、より安全で効率的な運行をサポートする「ソフト面」のサービスを総合的に提供できる体制が整ったといえるでしょう。
製造業からサービス業への脱皮は、もはや避けては通れない道です。私は、この戦略こそが日本の製造業が世界で勝ち残るための「正攻法」であると考えます。安価な製品が溢れる中で、データの蓄積という「目に見えない資産」を収益に変えるビジネスへの移行は、企業の生命線を左右する極めて重要な一手となるはずです。
CASE時代の到来と激化するタイヤメーカーの生存競争
なぜ今、各社はこれほどまでにサービス化を急ぐのでしょうか。背景には「CASE」と呼ばれる自動車業界の大変革があります。これは「つながる(Connected)」「自動運転(Autonomous)」「共有(Shared)」「電動化(Electric)」の頭文字を取った言葉で、車の在り方そのものが根底から覆ろうとしているのです。
ライバルの仏ミシュランも同業他社を買収しており、住友ゴムや横浜ゴムもセンサーを用いた空気圧の遠隔監視システムの開発に余念がありません。新興メーカーによる価格競争が激化する中、タイヤ単体の性能だけで差をつけることは難しくなっています。そこで各社は、路面と接する唯一の部品であるタイヤから得られる「情報」に勝機を見出しました。
タイヤは走行中の路面状況や負荷を直接感じ取れる貴重な情報源です。2019年12月02日現在の状況を鑑みると、このデータをいかに価値あるサービスへ変換できるかが、次世代の覇権を握る鍵となります。ブリヂストンの大胆な挑戦は、タイヤという伝統的なプロダクトを最先端のデジタルデバイスへと変貌させる、壮大なプロジェクトの幕開けなのです。
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