フランス・パリの喧騒を少し離れた7区に、世界中から参拝者が訪れる「奇跡のメダイ教会」がひっそりと佇んでいます。この教会の名が広まったきっかけは、1830年代にパリを襲ったコレラの流行でした。当時、聖母マリアのお告げを受けた修道女カタリナ・ラブレが作成した「メダイ(聖母の出現を記念したメダル状の信教用具)」を配布したところ、病が収束に向かったという伝承が残されています。
俳人として活躍する黛まどかさんが、この小さなメダイと出会ったのは、2000年代初頭のパリ生活でのことでした。慣れない地での体調不良に苦しむ彼女へ、友人がお守りとして贈ってくれたのが始まりです。SNSでも「大切な人から贈られるメダイには特別な力がある」という声が多く聞かれますが、黛さんにとっても、それは孤独な異国での心の支えとなりました。
帰国後、このメダイは黛さんの家庭で「癒しのリレー」を担う存在となります。ある時は大手術を控えたご両親の枕元へ、またある時は病魔と戦う友人の元へと、必要とされる場所へ渡り歩いてきました。驚くべきことに、重病を克服した友人や、メダイをユニフォームに縫い付けて甲子園出場という夢を叶えた甥御さんなど、持ち主たちに次々と希望をもたらしています。
「メダイ」とは、カトリック教会で用いられる信仰のシンボルであり、身につけることで神の加護を願うためのものです。黛さんは特定の宗教を信仰しているわけではありませんが、人知を超えた苦難に直面した際、心を預ける「よすが(精神的な支え)」としてこのメダイを大切にされています。小さな金属片に刻まれた無数の傷跡は、家族や友人が共に祈り、困難を乗り越えてきた歴史そのものなのです。
祈りが変える「ただの石」から「一生の宝物」へ
黛さんは、このメダイに触れるたびに、ある少年の逸話を思い出すといいます。大酒飲みの父親を亡くし、周囲から石を投げつけられた少年が、その石を拾い「ここが我慢のしどころだ」と自分に言い聞かせて立派に成長した物語です。ただの小石であっても、持ち主が強い思いを込め、祈りを捧げることで、それはかけがえのない価値を持つ存在へと昇華されます。
仏像が魂を吹き込まれて尊い存在になるように、このメダイもまた、多くの人の「良くなりたい」という願いを吸収してきました。2019年11月14日現在、教会の売店へ行けば誰でも安価に新しいメダイを手に入れることができます。しかし、黛さんの手元にある、傷だらけで古びたメダイは、世界中のどこを探しても見つけることはできない唯一無二の宝物です。
私たちが人生の荒波に揉まれるとき、目に見えない「祈り」を形にしてくれる存在があることは、どれほど救いになるでしょうか。科学では証明できない不思議な現象を「奇跡」と呼ぶのなら、メダイを通じて家族や友人の心が一つに結ばれること自体が、最高に美しい奇跡の形なのかもしれません。愛する人を思う静かな祈りは、今日も誰かの心を温かく包み込んでいることでしょう。
コメント