日本のモノづくりを根底から支え、「母なる機械」とも呼ばれる工作機械。その市場に、今まさに厳しい冬の嵐が吹き荒れています。2019年12月13日、日本経済新聞社が発表した主要7社の11月受注実績は、前年同月比で41.5%減という衝撃的な数字を叩き出しました。これで12ヶ月連続のマイナスとなり、業界全体が深いトンネルの中にいることが浮き彫りとなっています。
工作機械とは、金属を削ったり穴を開けたりして、自動車のエンジン部品やスマートフォンの筐体を作り出す、まさに製造業の「土台」となる設備です。この受注が減るということは、世界中のメーカーが将来への投資を控えている証拠に他なりません。SNS上でも「景気の先行指標がここまで落ち込むのは、来年以降の経済が心配だ」といった、製造現場からの悲鳴に近い声が次々と上がっています。
特に深刻なのが国内需要、いわゆる「内需」の冷え込みです。2019年11月の内需合計は44.8%減と、ほぼ半減に近い状態まで落ち込みました。牧野フライス製作所では、好調だった半導体製造装置向けの勢いが止まり、回復の兆しが見えません。かつては飛ぶ鳥を落とす勢いだった半導体関連も、現在は在庫調整や需要の停滞により、本格的な復活にはまだ時間がかかる見通しです。
国内トップランナーの一角であるオークマも、内需が48.1%減という苦境に立たされています。主力である自動車業界において、大手から中小企業に至るまで「様子見」の姿勢が定着してしまいました。商談の場自体は設けられているものの、最終的なハンコが押されないという現状に対し、現場からは溜息が漏れています。景気の不透明感が、企業の決断力を鈍らせているのは間違いありません。
外需の苦戦と、米中貿易摩擦がもたらす「大口案件」の停滞
視線を海外に向けると、そこには「外需」の低迷という別の壁が立ちはだかっています。特に欧州市場の弱さが際立っており、中国経済との結びつきが強いドイツの自動車産業が悪化した影響が、日本のメーカーを直撃しました。中国向けのプロジェクトも、延期が繰り返される異例の事態となっています。グローバルな供給網が複雑に絡み合う現代において、一国の不調は瞬く間に世界へと波及するのです。
そんな暗雲が立ち込める中で、わずかながらに希望の光も見え始めています。三菱重工工作機械では、2019年11月に内外需で大口の商談が成約し、前月比で2倍以上の受注を記録しました。米中貿易摩擦による不確実性から足踏みしていた企業が、一部で再び動き出している兆候かもしれません。止まっていた歯車が、少しずつ、しかし確実に回り始めようとしている様子が伺えます。
そして、2020年に向けた最大のプラス材料が、日米貿易協定の発効です。これまで米国へ輸出する工作機械には4%強の関税が課されていましたが、これが段階的に撤廃されます。米国市場は現地メーカーが少なく、日本と欧州が火花を散らす激戦区です。関税という重しが取れることで、日本製品の価格競争力は劇的に高まるでしょう。これは、逆風にさらされる日本勢にとって強力な追い風となります。
私は、現在のこの苦境こそが、次なる技術革新の「溜め」の期間であると考えています。受注が落ち込んでいる今、各社は自動化やAI活用の研究を加速させているはずです。単に安く売るのではなく、付加価値の高い提案ができるかどうかが、2020年以降の勝敗を分けるでしょう。日本のモノづくりが、再び世界を驚かせる日はそう遠くないと確信しています。
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