2019年冬の俳句選:日々の営みと別れを慈しむ「黒田杏子選」の深い味わい

2019年12月7日、冬の訪れとともに届けられた「黒田杏子選」の俳壇は、日常の何気ない幸せや、大切な存在との別れを惜しむ感情が見事に切り取られています。選者の黒田氏が注目したのは、生活感あふれる情景の中に潜む「命の輝き」です。SNSでは「一句一句が心に染み渡る」「自分自身の家族や人生と重ね合わせて涙した」といった共感の声が広がっており、俳句が持つ表現力の豊かさを改めて世に示しています。

まず目を引くのは、新潟の大田攻さんが詠んだ「肴豆(さかなまめ)」の一句でしょう。これは10月上旬に収穫される、シーズンの最後を飾る極上の枝豆を指します。一見すると「B級品」のように扱われがちな農産物であっても、その実力は侮れないと称える視点に、独自のこだわりが感じられますね。こうした「知る人ぞ知る旬の味」を季語のように扱うことで、地域の風土や食文化への深い愛着が伝わってくるのではないでしょうか。

また、2019年11月3日の「文化の日」に寄せられた句には、対照的ながらも力強い人生観が宿っています。中山精三さんは、俳句を詠む父親とそれを読む母親の姿を描き、静かな家族の絆を表現しました。一方の藤井好さんは、華やかな勲章はなくとも、今を懸命に生きていることこそが「文化」であると説きます。特別な功績がなくとも、日々の暮らしを慈しむ姿勢こそが最も尊いのだという主張には、現代を生きる私たちも勇気づけられますね。

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時代を彩った名女性たちへの追悼と、移ろう季節の叙情

この秋は、日本中が深い悲しみに包まれる別れもありました。保井甫さんは、緒方貞子さんと八千草薫さんという、日本を代表する二人の女性が旅立ったことを悼んでいます。一人は国際社会の第一線で人道支援に尽力し、もう一人は銀幕で永遠の淑女として愛されました。黒田選者もこの「悼句(とうく)」に対し、哀悼の意を表する「合掌」の言葉を添えています。亡き人を想う気持ちが、十七音という短い定型の中で結晶化されています。

季節は小春日和を迎え、縁側で髪を染める母親の姿や、大根を漬け込む隣近所の活気ある光景へと移ろいます。これらは「歳時記(さいじき)」、つまり俳句で季節を表すために定められたルールや事典に基づく情緒そのものです。特に「老人の菊作りを犬が見ている」という前田尚夫さんの句は、静かな時間の流れを感じさせ、ネット上でも「映像が目に浮かぶような傑作だ」と高い評価を得ていました。

年賀状を書く手が重たくなったと嘆く鈴木吉保さんの句には、誰もが避けては通れない「老い」への実感がこもっています。しかし、そこには単なる衰えだけではなく、これまでの長い年月を積み重ねてきた自負も透けて見える気がいたします。デジタル化が進む2019年現在において、毛筆で一筆ずつ言葉を紡ぐ行為の重みは、むしろ増しているのかもしれません。日々の些細な出来事を詩歌に昇華させる喜びを、大切にしたいものです。

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