日本のものづくりを支えてきた鉄鋼業界に、衝撃のニュースが飛び込んできました。最大手の日本製鉄が2020年2月7日、広島県にある呉製鉄所の全設備を2023年9月末までに休止し、事実上閉鎖することを発表したのです。さらに和歌山製鉄所でも、稼働している2基の高炉のうち1基を止める決断を下しました。今回の規模縮小により、国内の粗鋼生産能力は年間で500万トンも減少する見込みです。
この劇的な方針転換の背景には、泥沼化する米中貿易摩擦の影響による世界的な鉄鋼需要の冷え込みがあります。粗鋼とは、高炉で鉄鉱石を溶かして不純物を取り除いたばかりの、加工する前の生の鋼鉄のことです。自動車や建築などあらゆる産業の土台となる素材ですが、国内外での需要悪化に歯止めがかからず、同社の製鉄事業は赤字が拡大していました。そのため、予定していた構造改革を大幅に前倒しせざるを得なくなったのです。
呉製鉄所は子会社の日鉄日新製鋼が運営を担っており、2020年4月に日本製鉄へ吸収合併されることが決まっています。これまでも度重なる自然災害に見舞われ、業績の悪化が深刻な課題となっていました。一方、和歌山製鉄所では、2009年に稼働を開始したばかりの比較的新しい「第1高炉」を休止するという、痛みを伴う選択をしています。高炉は一度火を消すと再稼働が難しく、今回の決断からは企業の強い危機感が伝わります。
ネット上では「地域経済や雇用への影響が心配すぎる」「一つの時代が終わるようだ」といった悲痛な声が相次いでいます。それと同時に「ここまでの大ナタを振るわないと生き残れない時代なのか」と、業界の先行きを案じる書き込みも目立ちました。一連の設備休止によって、同社が国内に持つ高炉は15基から11基へと減少します。しかし、この冷徹とも言える効率化により、将来的には1000億円規模の収益改善が達成される見通しです。
同社が発表した2020年3月期の連結最終損益予想は、これまでの400億円の黒字から、一転して4400億円の巨額な赤字へと下方修正されました。これは将来的に利益を生むことが難しくなった製鉄所の資産価値を帳簿上で引き下げる「減損損失」を計上したためです。記者会見に臨んだ宮本勝弘副社長は、多額の損失計上について深く反省の意を述べ、今後は組織をスリム化して早期の業績回復を成し遂げたいと、悲壮な決意を語りました。
追い打ちをかけるように、足元では世界的な新型肺炎の流行という未知のリスクも顕在化しています。主要な顧客である自動車メーカーなどの製造業で需要がいつ戻るか分からない中、橋本英二社長は需要の減少を前提とした生産体制の最適化が不可欠であると強調しました。2020年4月からは国内16カ所の製鉄所組織を6カ所へと大胆に再編し、採用活動などの効率化も進める方針です。
今回の日本製鉄の決断は、かつての「鉄は国家なり」という栄光に依存せず、時代の変化を敏感に捉えた賢明な先手必勝の策であると私は評価します。一時的な赤字や痛みを恐れず、今ここで大胆な外科手術を執り行うことこそが、日本の製造業がグローバル競争を生き抜く唯一の道ではないでしょうか。この大改革が、日本の鉄鋼業をより強靭な体質へと生まれ変わらせる契機になることを切に願ってやみません。
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