近年、スマートフォン内蔵カメラの性能が飛躍的に向上する中で、あえて高額な専用機材に注目が集まっています。その中でも特に大きな話題となっているのが、ドローン最大手であるDJIが2018年12月に発売した超小型ビデオカメラ、「OSMO POCKET」です。このカメラの最大の魅力は、本体に搭載された「ジンバル」という手ぶれ防止装置にあります。価格は4万4,900円と決して安価ではありませんが、発売前から予約が殺到し、発売後も約2カ月にわたり品薄状態が続くという驚異的な売れ行きを見せました。
この「OSMO POCKET」は、長さ約12センチ、重さわずか116グラムというスマートフォンよりも小さく軽量な設計で、携帯性の高さも大きな特徴です。販売元であるDJIジャパンの広報担当者は、「私たちの予想をはるかに超えた売れ行き」と、その反響の大きさに驚きを隠せない様子です。注目を集める背景には、自ら積極的に動画撮影を楽しむ「ビデオ女子」たちの存在と、動画表現における新しいトレンドが深く関わっているのです。
手ぶれを徹底的に排除!「ジンバル」がもたらすプロ級の安定感
「ジンバル」とは、カメラを設置した際に、撮影者が歩いたり走ったりすることによって生じる映像の揺れや傾きを効果的に軽減してくれる手ぶれ防止装置のことです。カメラに内蔵された従来の電子的な手ぶれ補正機能と比較して、腕から伝わるような比較的大きな振動に対しても高い抑制力を発揮します。「OSMO POCKET」は、この高性能な小型ジンバルとカメラが一体化した製品であり、内蔵されたモーターがカメラの向きを自動的に補正し、常に安定した映像を記録します。これにより、「撮りたいと思った場面ですぐに撮影できる手軽さ」と「プロのような高画質な映像」が両立され、特に20代から30代の若年層から熱狂的な支持を受けていると広報担当者は分析しています。
このデバイスを愛用している一人に、ファッションコンサルタントとして活躍する市川渚さんがいらっしゃいます。彼女はファッション雑誌で連載を持ち、写真共有アプリ「インスタグラム」には、スキー場や旅行先で撮影された洗練された動画を多数投稿しています。市川さんが小型サイズと並んで特に気に入っているのが、ジンバル機能が生み出す「自然で滑らかな映像」です。これにより、「これ一つで一気にプロが撮ったような映像になる」と完成度の高さを評価しています。スマートフォンやカメラ単体で撮影した動画にはない、見やすさとクオリティが魅力だということです。
市川さんは、見やすい映像に対するこだわりが人一倍強く、「安定感のある快適な映像」を追求されています。彼女がこのこだわりを持つきっかけは、約3年前に始めたドローンでの撮影経験でした。ジンバル機能がないカメラで撮影した映像が「あまりにぶれ過ぎて、作品としてほとんど使えなかった」と振り返り、「ぶれた動画は、見る人が数秒で視聴を止めてしまう」と断言します。彼女にとってジンバル機能は「もはや必須の機能」だという強い意見には、視聴者にとってストレスのない映像を提供することの重要性が詰まっているといえるでしょう。
一般ユーザーにも浸透!販売現場で見られるジンバル人気の急加速
市川さんのような映像にこだわりを持つ層だけでなく、「初心者でもプロが作ったような、おしゃれで映画的な動画を撮りたい」という一般ユーザーの需要が非常に高まっていると、ビックカメラ有楽町店(東京・千代田)では感じています。店頭では、ジンバル単体の販売も非常に好調な状況です。たとえば、ヨドバシカメラマルチメディアAkiba(東京・千代田)では、2019年5月のジンバルの売上高が、前年同月と比較して1.5倍に大きく伸長しました。これを受けて、同店では2月からジンバル専用のコーナーを従来の4倍に拡大しています。
かつては5万円台のプロ向け一眼レフカメラ用の製品が売れ筋でしたが、最近では1万円から2万円台のスマートフォン用の製品の品ぞろえを2倍に増やしたところ、売れ行きが好調です。店舗担当者は、「来店するまでジンバルの存在を知らなかったお客様も増え、客層が大幅に広がった」と、ブームの広がりを肌で感じているようです。ビックカメラ有楽町店でも2019年3月末から専用コーナーを4倍に拡大し、3月から5月にかけて売上高と販売台数ともに毎月プラスで推移しており、この分野の注目度の高さが伺えます。
日常をおしゃれに切り取る「Vlog(ブイログ)」という新潮流
ジンバル人気を後押ししているのが、「Vlog(ブイログ)」と呼ばれる新しい動画のトレンドです。これは「Video(映像)」と「blog(ブログ)」を組み合わせた造語で、文章ではなく映像で日々の出来事などを公開する動画ブログを指しています。このブームの大きなきっかけの一つに、元AKB48の小嶋陽菜さんが2019年5月に動画投稿サイト「YouTube」に投稿した、自身の日常を撮影した動画があります。この動画は、公開からわずか1カ月でチャンネル登録者数が約7万人と、異例の伸びを記録しました。
この新しい形の動画投稿は、一見すると既存の「YouTuber」と一括りにされがちですが、動画マーケティング戦略の専門家であるトレンダーズの長谷川颯也戦略室長は「明確に異なる」と指摘しています。従来のYouTuberが「~やってみた」といった企画性の強いコンテンツを提供するのに対し、Vloger(ブイロガー)の最大の違いは「日常の様子を、おしゃれでありながらも、あくまで自然に見せる点」にあるといいます。この「自然に見せる」ことへのこだわりから、Vlogerたちの間では2018年末ごろから、ジンバルや高機能な編集アプリなどの機材にこだわる傾向が加速しているのです。
現在、「インスタグラム」の「ストーリーズ」や「TikTok」をはじめとする動画投稿のプラットフォームが次々と広がり、動画コンテンツを視聴・発信する環境は整いつつあります。さらに、2020年春には次世代通信規格である「5G」の実用化が始まる予定で、これにより2時間程度の動画がわずか3秒ほどでダウンロード可能になる時代が到来します。これは、私たちの動画体験を劇的に変えるでしょう。若者や女性の間で火が付いたジンバルへの関心の高まりは、「質の高い、こだわりの動画」を求める新たな時代の確かな予兆であると私は考えます。映像を追求する人々の熱意が、今後の動画文化をさらに豊かにしていくに違いありません。
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