日本が世界に誇る「ロボット大国」の牙城が、今まさに揺らぎ始めています。日本ロボット工業会が2019年07月25日に発表した統計データによると、2019年04月から06月期における産業用ロボットの出荷実績は、前年と比較して厳しい結果となりました。特に注目すべきは、自動車製造の要となる「溶接用ロボット」の輸出額が、前年同期比で45.7%減の135億円と、半分近くまで落ち込んでいる点でしょう。
この急激な冷え込みの背景には、世界規模で進む自動車販売の不振があります。各国の部品メーカーは将来への不安から、新しい工場設備への投資を控える「慎重姿勢」を強めており、それがダイレクトに数値へ表れた形です。SNS上でも「景気後退の足音が聞こえる」「製造業の現場が止まっているのではないか」といった、将来を不安視する声が目立っています。現場の熱気が、統計を通じて冷え込んでいる様子が伝わってきます。
全体を見渡しても、出荷総額は16.1%減の1578億円となり、2019年01月から03月期の減少幅をさらに拡大させてしまいました。この不調の最大の要因と考えられるのが、泥沼化する「米中貿易摩擦」です。世界経済の二大巨頭が対立を深める中で、製造業全体の投資マインドが冷え切っているのでしょう。輸出が総出荷の約7割を占めるこの業界にとって、外需の減退はまさに死活問題と言えるはずです。
電子部品や北米市場も苦戦、連鎖する製造業の「ブレーキ」
苦戦を強いられているのは、決して自動車分野だけではありません。スマートフォンの製造などに欠かせない「実装用ロボット」についても解説しておきましょう。これは基板に微細な電子部品を高速で配置する精密な機械のことですが、この分野も17.0%減の501億円と振るいません。さらに地域別で見ると、これまで堅調だった北米向け輸出が29.2%減と大きく沈んでおり、特定地域に限らない世界的な減速が浮き彫りになっています。
主要企業の業績にも、その影は色濃く落とされています。例えば、業界大手の安川電機は2019年03月から05月期の決算で、純利益が前年比で7割も減少するという衝撃的な数字を叩き出しました。川崎重工業といった競合他社も同様の減少傾向にあると推察されます。現場からは「自動車関連の投資が止まったことで、ロボットを構成する減速機やベアリングといった周辺部品の需要まで連鎖的に落ちている」という悲鳴にも似た声が上がっています。
ここで言う「ベアリング(軸受け)」とは、機械の回転部分を支え、摩擦を減らして滑らかに動かすための極めて重要なパーツです。ロボットという完成品が売れなければ、それを構成する小さな部品メーカーまで影響が及ぶのは当然の摂理でしょう。SNSでは「日本のものづくりのサプライチェーン全体が、ドミノ倒しのように止まってしまうのではないか」という鋭い指摘も散見され、事態の深刻さがうかがえます。
不透明な先行きと今後の展望、2019年下半期の鍵はどこに?
2019年04月から06月期の受注額は、16.5%減の1775億円と、3四半期連続で前年を下回りました。前回の調査時に比べて減少率自体は縮小したように見えますが、工業会側は「前年が良すぎた反動に過ぎない」と冷静に分析しています。2019年05月には米中の対立が一段と激化しましたが、月ごとの受注水準に目立った回復の兆しは見られず、現状は「踊り場」というよりは「低迷期」にあると判断せざるを得ません。
私自身の見解としては、この状況は単なる一時的な景気変動ではなく、製造業の「構造的な転換点」に来ているのだと感じます。これまでは自動化への投資が右肩上がりで続くことが前提とされてきましたが、地政学リスクという不確定要素がその方程式を狂わせました。今後は、単純な生産効率の向上だけでなく、予測不能な市場の変化に柔軟に対応できる「レジリエンス(復元力)」を備えたシステム提案が、メーカー側には求められるのではないでしょうか。
日本ロボット工業会は、2019年年間の受注見通しを下方修正し、前年比2.3%減の9400億円になると予測しています。2019年下半期の浮沈は、世界経済を覆う霧が晴れるかどうかにかかっています。最先端の技術を持つ日本のロボット産業が、再び力強く動き出す日はいつ来るのか。投資家のみならず、全てのビジネスパーソンにとって、今後の米中動向と設備投資の推移からは一瞬たりとも目が離せません。
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