2019年08月23日、福岡市の人工島「アイランドシティ」において、公共交通のあり方を根本から変える壮大な実験が注目を集めています。三菱商事と西日本鉄道がタッグを組み、人工知能(AI)を駆使した次世代型バス運行システムの実証試験を2019年04月から開始しました。この鮮やかな水色のバスは「のるーと」と名付けられ、地域の足として新たな風を吹き込んでいます。
「のるーと」の最大の特徴は、従来の時刻表に縛られない「オンデマンド配車」にあります。これは、利用者のリクエストに応じて車両が運行する仕組みのことです。専用アプリで予約を行うと、地区内に点在する約60カ所の乗降ポイントから、AIが乗客一人ひとりの目的地を瞬時に解析します。これにより、無駄のない最適なルートを自動で算出。まるでタクシーのような手軽さを、バスの運賃で実現したのです。
この革新的なプロジェクトを牽引するのは、三菱商事の西倫三郎さん、藤岡健裕さん、中川和明さんの3名です。西さんは2016年頃から自動車シェアリングの普及に着目し、地域密着型の輸送サービスの可能性を探ってきました。インド駐在を経験した藤岡さんは、あらゆるモノが通信で繋がる「IoT(Internet of Things)」の波が自動車修理業界を変える姿を間近で見ており、日本の地方交通の苦境をITの力で救いたいという強い志を抱いていました。
SNS上では、この試みに対して「時刻表を気にせずアプリで呼べるのは画期的」「地方の不便なバス路線がこうなってほしい」といった期待の声が上がる一方で、アプリ操作に慣れない世代への配慮を求める意見も散見されます。こうした声に真摯に向き合うべく、開発チームは週の半分以上を福岡で過ごし、現場での改善を積み重ねています。現場主義の姿勢こそが、サービスを磨き上げる源泉となっているのでしょう。
システムの心臓部には、カナダのスペアラボ社が開発した高度なアルゴリズムが採用されています。シリコンバレーでの勤務経験を持つ中川さんは、この技術を日本に適応させるため奔走しました。誕生して間もないアイランドシティは、既存の地図データに道が載っていないこともしばしば。そこで、カナダから技術者を招き、実際に街を歩いて一から精緻なデジタルマップを作り上げるという、気の遠くなるような作業を完遂したのです。
公共交通の課題は、単なる移動手段の確保に留まりません。少子高齢化や運転手不足、赤字路線の拡大といった深刻な社会問題が背景にあります。私は、こうしたAIによる効率化こそが、地方を衰退から守る「防波堤」になると確信しています。従来の「決まった時間に走らせる」という供給側の論理から、「必要な時にだけ動く」という需要重視への転換は、環境負荷の低減とコスト削減を同時に叶える賢明な選択だと言えるでしょう。
もちろん、道は平坦ではありません。2019年08月現在の1日平均利用者数は約120名と、目標の400名には届いていません。しかし、利便性の向上により自動車を手放す住民も現れるなど、確かな変化の兆しが見えています。データの蓄積によってミーティングポイントを増設し、より生活に密着したルートを構築する作業は今も続いています。3人の挑戦者が描く未来の地図が、日本の地方交通を鮮やかに塗り替えていくはずです。
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