今、世界的に注目を集めている**現代貨幣理論(MMT)を巡る議論が、日本でも熱を帯びています。MMTとは、「Modern Monetary Theory」**の略称で、「政府が自国通貨建てで借金をする限り、財政赤字は問題にはならない」と提唱する、従来の経済学の常識を覆す異端の経済理論でございます。この主張の根底には、通貨発行権を持つ国は、必要に応じて貨幣を創出できるため、自国通貨建ての債務でデフォルト(債務不履行)することはない、という考え方があります。もちろん、インフレが起きない限りという制約はありますが、財源を気にせず積極的な財政出動を可能にする理論として、多くの関心を集めているのです。
この理論が日本で本格的に取り上げられ始めたのは、2019年3月15日付の新聞朝刊で「米で財政赤字容認論が浮上」という記事が報じられてから、わずか3カ月ほどの間に急速に広がり、国会での質疑応答や、日本銀行総裁の記者会見でも言及される事態となりました。さらに、財務省の財政制度等審議会では、アメリカの経済学者らの意見に基づき、MMTに反論するための資料が配布されるなど、政府や金融当局もこの議論を無視できない状況になってきています。また、2018年末まで安倍晋三首相のブレーンを務めた積極財政論者の藤井聡・京都大学教授が中心となり、2019年7月にはMMTの提唱者であるアメリカの経済学者、ステファニー・ケルトン氏を日本に招き、シンポジウムが計画されるなど、反緊縮派にとってMMTは大きな援軍と捉えられているようです。
🇺🇸アメリカで激化する主流派経済学との対立軸
この現代貨幣理論は、これまでも話題となったノーベル賞学者の名を冠したシムズ理論として紹介されたFTPL(物価水準の財政理論)や、バーナンキ元アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)議長らの提唱したヘリコプターマネーといった、海外発の反緊縮論とは異なる特徴を持っています。従来の議論が本国よりも日本で盛り上がることが多かったのに対し、MMTはアメリカ本国でも主流派経済学者との間で激しい論争が続いている点です。そして何より、著名な経済学者であるポール・クルーグマン氏やローレンス・サマーズ氏といった、アメリカの主流派経済学の権威たちがこぞってMMTに反対しているという点が、従来の異端論には見られなかった大きな違いと言えるでしょう。
このような異端の経済学がアメリカで急速に支持を集めている背景には、既存の経済理論や政治思想への信頼が揺らいでいる現状があります。例えば、アメリカでも失業率が低下し完全雇用に近い水準に達しているにもかかわらず、賃金や物価が上がらないという状況が見られます。ましてや、日本においては、日本銀行による異次元緩和を長期間続けても、物価上昇率2%という目標には遠く及びません。また、グローバル資本主義を推進してきたアメリカが、トランプ政権の下で環太平洋経済連携協定(TTP)を離脱し、高関税政策を推し進めるなど、ワシントン主流派の思想や経済学が大きく変わりつつある状況も、MMT浮上の土壌となっているのです。
ワシントンの主流派を敵視し、その手法を否定することで**「成功」を収めたドナルド・トランプ大統領の存在は、2020年の大統領選挙を目指す民主党候補の戦略にも大きな影響を与えています。そのひとつの回答が、クリントン政権やオバマ政権を支えた民主党主流派の経済学者が猛烈に反対するMMTなのかもしれません。たとえば、2019年に29歳で史上最年少の女性下院議員となったアレクサンドリア・オカシオコルテス氏(AOC)は、MMT支持を公言する政治家の代表的な存在です。ミレニアル世代に支持される民主社会主義の理念は、地球温暖化対策のためのグリーン・ニューディール**、国民皆保険、そして政府が雇用を保障する雇用保障プログラムといった、巨額の歳出拡大を伴う政策と、異端のMMTとが強く共鳴し合っている様子がうかがえます。
⚖️FRBの金融政策とMMTの危うい対峙
一方、現職のトランプ大統領は、選挙公約の大型減税は実行したものの、最近はもっぱらFRB(連邦準備制度理事会)に対して、金融緩和を強く要求しています。これは、現在の世界経済の減速が米中貿易戦争の影響が大きいにもかかわらず、景気悪化の責任をFRBに押し付けようとする姿勢の表れと言えるでしょう。これに対し、FRBのパウエル議長は2019年6月4日の討論会で、「金融危機時に用いた手法を非伝統的と呼ぶのはやめる時期だろう」と発言しました。これは、利下げの余地がなくなっても、資産購入などの非伝統的な手段を使って景気悪化を食い止めるという、金融緩和への強い決意を示したものと受け取れます。
市場では、FRBが政策を通じて常に株価を支えてくれるという期待から「パウエル・プット」という言葉まで登場し、金融緩和への期待が高まっています。しかしながら、金融緩和策に過度に依存することは、資産バブルの発生や、企業が過剰な債務を抱えるといった新たな経済的な歪みを生み出すリスクをはらんでいる点を見過ごせません。大統領からの強い圧力に押され、金融緩和へと動き出したFRBの姿勢と、これに対抗するかのように台頭してきた異次元の財政政策であるMMTの議論は、アメリカの経済政策が規律を失いかねないという危うさを内包した「FRB」対「MMT」という展開を呈してきたと言えるでしょう。私自身の意見としましては、MMTが提唱する「財源の制約はインフレのみ」という考え方は、財政規律を緩める誘惑に満ちており、政治がインフレ抑制という困難な決断を先送りするリスクを高めると懸念しています。しかし、従来の経済政策がデフレ脱却や景気回復に十分な効果を発揮できていない現状を考えると、異端の理論が注目されるのも当然の流れと言えます。この大論争の行方は、世界の経済政策の枠組みを大きく変える可能性を秘めているのです。
この記事へのSNSでの反響として、多くの経済学者や一般の読者から、MMTの危険性を指摘する声や、一方で既存の経済学に対する不満からMMTに期待を寄せる声が上がっています。「MMTは単なる財政ファイナンスの言い換えであり、国家財政の破綻を招く暴論だ」といった批判的な意見が主流派経済学者を中心に多く見られる一方で、「デフレに苦しむ日本こそ、MMT的な大胆な財政出動を試すべきだ」といった意見や、「これまでの緊縮財政では景気が良くならないのだから、新しい考え方を取り入れるべき」といった、現状の政策に対する不満を背景にした期待の声も多く、賛否両論が激しく交錯している状況がうかがえるでしょう。
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