どんなに業界を牽引するトップ企業であっても、その成功の裏には必ずと言っていいほど「苦手分野」が存在するものです。特に、百貨店がスーパー経営に苦戦し、逆に量販店が百貨店事業を軌道に乗せられないといった現象は、ビジネスの世界では決して珍しくありません。ビール業界の絶対王者として君臨するアサヒビールも、実はかつて大きな壁に突き当たっていました。
その壁こそが、缶チューハイなどに代表される「RTD(Ready to Drink)」と呼ばれるカテゴリーです。RTDとは、栓を開けてそのまま飲める低アルコール飲料を指し、近年の多様化する消費ニーズの中で急速に存在感を高めています。アサヒビールは1984年から業務用市場へ参入していましたが、満を持して2001年、家庭用市場への本格進出を果たしました。
当時の期待を一身に背負って誕生したのが、新ブランドの「ゴリッチュ」です。ビール市場で圧倒的なシェアを誇る同社にとって、この新ジャンルへの挑戦は輝かしい未来を約束されたものに見えたかもしれません。しかし、現実の市場評価は予想以上に厳しいものとなりました。ブランドの立ち上げにおける初動の判断が、後に大きな課題を残すことになったのです。
甘い顧客想定が招いた誤算とSNSで語り継がれる教訓
2019年11月22日現在の視点から振り返ると、この「ゴリッチュ」の事例は戦略ミスが招く「黒歴史」として、マーケターの間で語り草となっています。当時のSNSやネットコミュニティでも、「名前のインパクトはあるけれど、誰向けなのか分からない」といった辛辣な意見が散見されました。顧客が何を求めているのかという分析が、少し甘かったのかもしれませんね。
最強のビールブランドを持つがゆえに、自社の成功体験が逆に「呪縛」となって、RTD独自の市場特性を見誤らせた可能性は否定できません。ビールの顧客層と、手軽さを求めるRTDの顧客層では、求める価値観が根本から異なります。ここを混同してしまったことが、初動の躓きの要因といえるでしょう。失敗を糧にできるかどうかが、企業の真の強さを決めます。
私は、この挑戦自体は決して無駄ではなかったと考えています。どれほど高い技術力があっても、消費者の心に寄り添った繊細なブランド設計がなければ、市場で生き残ることは困難です。アサヒビールのこの「黒歴史」は、慢心を戒め、常に市場に対して謙虚であることの重要性を私たちに教えてくれているのではないでしょうか。
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