日本を代表するベアリングメーカー、日本精工で名誉顧問を務める朝香聖一氏は、長年のゴルフ経験が経営の現場において極めて重要な役割を果たしてきたと語ります。朝香氏のスタイルは、相手に気を使う「接待ゴルフ」とは無縁の、常に全力で挑む「ガチンコ勝負」です。2019年11月14日現在も、その情熱が衰えることはありません。
ゴルフを通じて築かれた人脈は驚くほど多彩で、トヨタ自動車の前社長である渡辺捷昭氏や、コマツ元社長の野路国夫氏といったそうそうたる顔ぶれが並びます。お互いに手加減抜きの真剣勝負を繰り広げることで、言葉を超えた深い信頼関係が芽生えるのでしょう。SNS上でも「トップ同士の真剣な遊びこそが、最強のネットワークを作る」と感銘を受ける声が目立ちます。
遊びの中から生まれる「あうんの呼吸」とビジネスのヒント
朝香氏は、かつて電機メーカーなどの担当者と年間60回ものラウンドを重ねた時期がありました。しかし、プレー中に野暮な商談を持ち出すことは決してありません。パターを沈める瞬間に仕事の話をされては、せっかくの興奮も冷めてしまいます。あくまで遊びに徹し、和気あいあいとした時間を通じて「あうんの呼吸」を育むことが秘訣なのです。
「あうんの呼吸」とは、言葉にしなくてもお互いの意図が通じ合う、密接な関係性を指す専門用語のようなものです。この心理的な距離の近さが、プレー後の食事の席で生きてきます。ふとした会話の中でシェア維持の相談ができたり、後日の電話一本で問題が解決したりすることもあるそうです。遊びの余裕が、結果的にビジネスの円滑な進行を支えていると言えるでしょう。
私は、この「オンとオフの境界線をあえて曖昧にする余裕」こそが、成熟したリーダーに求められる資質だと考えます。単なる効率化だけでは到達できない、人間味あふれる交渉術には学ぶべき点が多いはずです。
スコアメイクと事業運営に共通する「確率論」の重要性
ゴルフのプロセスは、ドライバーでのティーショットから始まり、アプローチを経てパッティングで締めくくられます。朝香氏は、この流れが経営課題の解決プロセスに酷似していると指摘します。特に重要なのが「アプローチ」です。これは目標地点に対して、残りの距離や状況に応じた最適な手法を選択する「寄せ」の技術を意味します。
経営においても、目標達成のために「最短で易しい方法は何か」を冷静に見極める力が不可欠です。朝香氏は「ゴルフのスコアメイクにおいて無茶は禁物であり、確率論で言えば冒険はほとんど失敗する」と断言します。届かない目標に固執して時間を浪費するくらいなら、他社の買収を選択肢に入れるような柔軟性こそが、実務における「賢いアプローチ」なのです。
1949年生まれの経営者仲間が集う「グループ24会」では、東レの榊原定征氏らと共に、10年近く交流を深めています。奥様方も交えた賑やかな社交の場は、単なる趣味を超えた人生の潤いとなっているようです。ゴルフというスポーツが、単なる球打ちではなく、戦略的思考と人間関係の構築を同時に鍛える「経営の鏡」であることを、朝香氏の歩みが証明しています。
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