現在の世界経済を俯瞰すると、まるで1998年の情勢を鏡で見ているようだと指摘する専門家が増えています。その最大の要因は、米連邦準備理事会(FRB)による「予防的利下げ」の実施です。景気が本格的に冷え込む前に手を打つこの手法により、2019年10月には今年3度目となる金利引き下げが行われました。これはかつてのロシア危機や大手ヘッジファンド破綻を受けて実施された、21年前の金融政策と驚くほど似通った動きを見せているのです。
過去の歴史を振り返れば、1998年の利下げは結果として資産価格の異常な高騰を招きました。それが2000年にかけて世界を席巻した「ドットコムバブル」の引き金となったことは言うまでもありません。新興ネット企業の株価が実力以上に跳ね上がったあの熱狂が、再び繰り返されるのではないかという懸念が市場に漂っています。もし現代において同様の現象が起きるとすれば、その主役は巨額の資金を飲み込んで成長する「ユニコーン企業」になるでしょう。
「ユニコーン」とは、評価額が10億ドルを超える未上場のスタートアップを指す専門用語です。伝説の生き物に例えられるほど希少だったはずが、近年は「10兆円ファンド」を掲げるソフトバンクグループなどの巨大マネーによって、その数は膨れ上がりました。しかし、この勢いに急ブレーキがかかったのが2019年11月13日現在の状況です。同社はシェアオフィス大手のウィーカンパニーへの投資で巨額の損失を出し、直近の四半期決算で約7000億円という衝撃的な赤字を記録しました。
この事態に対し、SNSや投資家の間では「ついにバブルが弾けたのか」と大きな動揺が走りました。ウィーカンパニーが計画していた新規株式公開(IPO)の失敗は、未公開市場での「言い値」による過大な評価に対し、シビアな一般投資家たちが「ノー」を突きつけた結果といえます。市場の目利きたちが、実体以上の期待だけで膨らんだ企業の価値を冷静に見抜いたのです。この鮮やかな対比は、現代の投資環境がいかに危ういバランスの上に成り立っているかを如実に物語っています。
しかし、今回のソフトバンクグループの赤字転落は、市場全体を揺るがす大恐慌には至りませんでした。同社は今後、企業が自由に使える現金を示す「フリーキャッシュフロー」を重視する方針へ切り替えると明言しています。私は、今回の出来事は巨大な「バブル(大泡)」が破裂したというより、表面に浮いた「フロス(小さな泡)」が消えたに過ぎないと考えています。むしろ早い段階で膿が出たことは、健全な市場形成においてポジティブな要素となるはずです。
とはいえ、世界的にマネーが溢れかえっている状況に変わりはありません。行き場を失った投資資金が、次はどの分野へ流れ込み、新たな熱狂を作り出すのかを予測するのは極めて困難です。安易なブームに乗るのではなく、企業が実際に稼ぎ出す力の有無を冷静に見極める眼力こそが、今の私たちには求められています。一時的な流行に惑わされず、本質的な価値を見据えた投資のあり方を再考すべき時期に来ているのではないでしょうか。
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