2019年11月19日、将棋界に激震が走る一局が東京都渋谷区の将棋会館にて繰り広げられました。第69期王将戦の挑戦権を懸けたリーグ最終戦は、まさに歴史が動く瞬間に立ち会おうとするファンの熱い視線に包まれていたのです。若き天才、藤井聡太七段が挑んだのは、現役タイトルホルダーである広瀬章人竜王。勝てば史上最年少でのタイトル挑戦という偉業が成し遂げられる一戦は、誰もが予想し得ないドラマチックな幕切れを迎えました。
今回の王将戦挑戦者決定リーグは、トップ棋士7名が総当たりで戦う、将棋界で最も過酷な場所の一つと言われています。ここで優勝した者だけが、渡辺明王将への挑戦切符を手にすることができるのです。藤井七段はこの試合に勝利すれば、2020年1月の七番勝負開幕時に17歳5ヶ月という若さになります。これは屋敷伸之九段が1989年に記録した17歳10ヶ月を塗り替える、30年ぶりの新記録樹立を意味していました。
対局の内容は、まさに「二転三転」という言葉が相応しい大激戦となりました。中盤から終盤にかけて、両者の読みが火花を散らす緊迫した展開が続きます。戦況が最終盤に差し掛かった頃、藤井七段の手によって「勝勢」とも言える有利な局面が築かれました。勝利の女神が17歳の少年に微笑みかけたかのように見えましたが、将棋の神様は最後に過酷な試練を与えたようです。広瀬竜王の放った鋭い王手に対し、藤井七段はまさかの受け間違いを犯してしまいました。
将棋において「詰み」とは、自玉がどうしても逃げられず、捕まってしまう状態を指します。藤井七段が犯した痛恨のミスは、自らの玉を詰みの形へ導いてしまうという、プロの対局では珍しい結末を招きました。対局後、広瀬竜王は「運がよかった」と謙虚に語りましたが、藤井七段は「最後に間違えたのは残念。それが実力かなと思います」と、振り絞るような声で悔しさを滲ませていました。敗北を真摯に受け止めるその姿は、多くの観客の胸を打ちました。
SNS上では、深夜まで及んだ激闘を見守っていたファンから「心臓が止まるかと思った」「藤井七段の涙を忘れない」といった感動と落胆の声が溢れかえりました。勝勢からの逆転負けという衝撃的な幕切れに、将棋界全体が静まり返ったような錯覚すら覚えます。しかし、これほどまでのプレッシャーの中で、一国の竜王を追い詰めた17歳の才能には驚嘆せざるを得ません。今回の敗戦は、彼がさらなる高みへ登るための、大きな糧となるに違いありません。
編集者としての私見ですが、勝負の世界における「記録」とは残酷なものです。しかし、今回藤井七段が見せた勝負への執念と、敗れた直後の自己批判的な言葉は、彼が単なる「天才」ではなく、飽くなき探究心を持つ「求道者」であることを証明しました。歴史を塗り替える日は確実に近づいています。最年少記録の更新は残る第91期棋聖戦に委ねられることとなりましたが、今の彼なら、この悔しさを爆発させて新たな伝説を作ってくれると確信しています。
コメント