海をゆく旅の形が、今まさに大きな転換期を迎えようとしています。2019年11月20日現在、フェリー業界では2020年1月から実施される実質的な運賃値上げへの対応に追われている状況です。今回の価格改定は、世界的な環境意識の高まりを受けた「SOx規制」という国際的なルール変更が背景にあります。この規制は、船舶燃料に含まれる硫黄分の上限を現在の3.5%から0.5%以下へと大幅に引き下げるもので、地球環境を守るためには避けて通れない決断と言えるでしょう。
この厳しい新基準をクリアするためには、従来の安価な「C重油」ではなく、精製コストの高い「適合油」を使用しなければなりません。燃料価格が3割から4割も跳ね上がると予測されており、各社は「もはや企業努力だけで吸収できる範囲を超えている」と悲鳴を上げています。SNS上では、10月の消費増税に続く負担増に対して「移動コストが上がるのは痛い」と懸念する声が上がる一方で、「環境のためなら仕方ない」「これを機にサービスの質が上がるなら応援したい」という前向きな意見も散見されます。
利用者の「フェリー離れ」を防ぐため、各社は単なる値上げに留まらない魅力的な施策を次々と打ち出しています。例えば、商船三井グループの「フェリーさんふらわあ」では、2019年11月から大阪―別府航路において、あえて定員を減らしてでも睡眠マットの幅を広げるという大胆な客室刷新を行いました。快適な睡眠環境を提供することで、移動そのものを「贅沢な休息時間」へと昇華させようとする姿勢は、現代のタイパ(タイムパフォーマンス)を重視する旅行者のニーズに合致しているのではないでしょうか。
また、運航スケジュールの工夫によって新たな需要を掘り起こそうとする動きも活発です。新日本海フェリーは、ホテルに宿泊せずとも往復ができるような利便性の高いダイヤを拡充する方針を示しています。さらに太平洋フェリーでは、海洋状況をリアルタイムで共有し、燃費の良い航路を選択する「エコ運航」の徹底によってコスト削減と環境負荷低減の両立を目指しています。これらの取り組みは、単なる移動手段としてのフェリーが「選ばれる理由」を持つための重要な戦略と言えます。
物流面では、環境負荷の低い輸送手段へ切り替える「モーダルシフト」が追い風となり、トラックの航送台数は堅調に推移しています。LCC(格安航空会社)との競争が激化する中で、フェリーに求められる役割は「安さ」から「体験価値」へとシフトしていると感じます。広々としたデッキから眺める夕日や、船内イベントといった非日常の体験は、他の手段では決して味わえません。2020年の値上げを、業界がより質の高いサービスへと舵を切るポジティブなきっかけにしてほしいと切に願います。
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