深刻な人口減少と人手不足に直面する山口県美祢市が、全国でも類を見ない大胆な地方創生プランを推し進めています。その核となるのは、なんと市内に位置する刑務所「美祢社会復帰促進センター」の労働力です。2019年11月28日現在、市はこの施設を単なる隔離の場ではなく、貴重な「地域の資源」と再定義し、受刑者の社会復帰と地域の活性化を同時に叶えるという、非常に意欲的な試みをスタートさせています。
美祢社会復帰促進センターは、2007年に日本初の「PFI方式」で誕生しました。これは、公共施設の建設や運営を民間の資金とノウハウを活用して行う手法のことです。かつては工業団地として予定されていた場所でしたが、企業の進出が進まなかったため、市が刑務所の誘致へと舵を切った経緯があります。現在ではセコムなどが出資する民間組織と国がタッグを組み、官民協働で運営が行われている非常に先進的な施設なのです。
このセンターがもたらす経済効果は、私たちの想像を遥かに超えています。2017年の推計によれば、施設の維持管理や職員の消費などを通じ、年間で約56億円もの波及効果を生んでいるそうです。しかし、それでも市の人口減には歯止めがかからず、2019年現在の人口は約2万4,000人。働き手となる15歳から64歳の割合が半分を切るという危機的状況の中、市はついに受刑者の「若さ」と「労働力」を地域の産業に組み込む決断を下しました。
「外勤」から始まる新しい共生のかたち
注目すべきは、受刑者が刑務所の外に出て働く「外部通勤作業」の活用です。2018年末時点の受刑者の平均年齢は男性が34.7歳、女性が41.1歳と、市の高齢化率と比較して非常に若いのが特徴です。しかも、ここに収容されているのは初犯で集団生活に適応できるとされる方々です。市は2020年度から、特産の栗の皮むきや梨の選果作業に彼らの力を借りる計画を立てており、既に受け入れ先の企業からは「真面目な働きぶり」を高く評価する声が上がっています。
さらに市が目指すのは、受刑者が「出所後にそのまま美祢市に定住する」という究極の形です。アンケートによれば、彼らが社会復帰に際して抱く最大の不安は「仕事」と「住居」です。もし地域がその受け皿となれば、人手不足の解消と人口増加の一石二鳥となります。SNSでは「画期的なアイデアだ」と称賛する声がある一方で、「治安は大丈夫なのか」「住民の心理的な壁はどう乗り越えるのか」といった慎重な意見も飛び交い、大きな注目を集めています。
私は、この取り組みこそが地方自治体の持つ「覚悟」の現れだと感じます。受刑者を排除するのではなく、労働力として、そして将来の隣人として受け入れるという発想は、綺麗事だけでは済まない困難も伴うでしょう。しかし、既存のやり方で人口減を止められない今、こうした「共生」のモデルケースを構築することは、日本全体の未来にとっても非常に価値のある挑戦ではないでしょうか。
もちろん、課題は山積みです。出所者の約9割がもともと帰るべき場所を持っており、これまでに市へ定住した実例はまだありません。単なる労働力として利用するだけでなく、地元の農産物を加工して付加価値を高める「6次産業化(生産・加工・販売を一体化すること)」などの魅力的な仕事づくりも不可欠です。美祢市が掲げる「共生のまちづくり」が、全国の限界集落を救う希望の光となるのか。2019年、その真価が問われています。
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