福井県に本拠を置く樹脂加工の雄、フクビ化学工業が、長年の課題であった「職人の技」のデジタル化に乗り出しました。2019年11月30日、同社は製造現場におけるノウハウの「見える化」を推進する方針を明らかにしています。これは、これまでベテラン技術者が長年の経験と勘で調整してきた樹脂成形のプロセスを、数値としてデータ化しようという野心的な試みなのです。
樹脂成型品の製造においては、その日の気温や湿度のわずかな変化が、仕上がりに多大な影響を及ぼします。熟練者はこうした環境変化を肌で感じ取り、機械を微調整してきましたが、この「感覚」を言葉やマニュアルで伝えるのは至難の業でした。SNS上では「製造業の最大の課題は技術承継」「ついに職人の領域にデータが切り込むのか」といった驚きと期待の声が広がっています。
AIとセンサーが実現する次世代の歩留まり改善
具体的な計画として、同社は2020年度中に主要な製造ラインへ複数の高精度センサーを導入する予定です。ここで計測されるのは、機械内部の樹脂の温度や湿度といったリアルタイムのデータです。蓄積された情報と完成品の品質をAI(人工知能)で分析し、熟練者がどのような状況下でどんな操作を行ったのかを解明します。これにより、未経験者でも一定水準の調整が可能になる仕組みを整えます。
ここで注目すべきは「歩留まり(ぶどまり)」の向上です。歩留まりとは、投入した原材料に対して、実際に良品として完成した製品の割合を指す言葉で、製造効率の指標となります。AIが製品のわずかな差異を学習し、自動で補正を行うシステムが構築されれば、無駄な廃棄を劇的に減らすことができるでしょう。同社は慎重に導入方法を検討しながら、全ラインへの拡大を目指しています。
地道な改善とITの融合で人手不足を打破
フクビ化学工業がこの改革を急ぐ背景には、深刻な労働力不足があります。福井県内での採用難が続く中、2019年4月には設備統括部を新設し、工程の組み直しや工具管理の一括化といった現場のムダを省く地道な活動を続けてきました。上田修一部長が語るように、高価なIT設備を導入するだけでなく、いかにそれらを実利に結びつけるかという「現場の工夫」こそが、真の競争力を生むはずです。
個人的な見解として、この取り組みは単なる効率化を超えた、日本のモノづくりの尊厳を守る戦いだと感じます。伝統的な「勘」を否定するのではなく、それをデータという共通言語に翻訳することで、若手が挑戦しやすい環境を作る姿勢には大いに共感できます。2020年3月期の売上高は420億円を見込んでおり、新技術の導入が利益率を押し上げる強力な武器になることは間違いありません。
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