TikTokへの逆風は商機か?米国で激化するショート動画覇権争いと「ポスト中国」の勝機

2019年10月31日のハロウィーン、米国であるアプリが熱狂に包まれました。画面を彩るのは、煌びやかな仮装と音楽が融合した「ショート動画」の数々です。これは人気メキシコ料理チェーン「チポトレ」が仕掛けたキャンペーンで、景品の「ブリトー1年分」を目指して多くの若者が動画を投稿しました。舞台となったのは、今や世界で5億人のユーザーを抱える中国発のアプリ「TikTok(ティックトック)」です。

TikTokを運営するバイトダンス社は、現在、世界最大の企業価値を誇るスタートアップとして君臨しています。もともとアジア圏での普及が目立っていましたが、最近では「ジェネレーションZ」と呼ばれる1990年代中盤以降に生まれた若い世代を中心に、米国でも爆発的な人気を博しています。SNS上では「中毒性が高すぎる」といった声が溢れており、企業にとっても無視できない巨大な広告媒体へと成長を遂げました。

しかし、この急成長は同時に「米国政府からの厳しい視線」という副作用を招いています。2019年10月9日には、対中強硬派のルビオ上院議員が、中国政府による検閲やデータ管理への疑念を理由に、運営会社への調査を財務省に求めました。SNSでは「情報の透明性が不安」という慎重派の声も目立ち始めています。こうした地政学的なリスクが、先行する巨大プラットフォームに影を落としているのが現状でしょう。

こうした先行者への逆風を、したたかに「追い風」へと変えようとする新勢力も現れました。その筆頭が、米ループナウテクノロジーズが展開する「ファイアワーク」です。同社のビンセント・ヤンCEOは、かつてショート動画を5時間も見続けてしまった経験から、その可能性を確信したといいます。しかし、彼は単なる模倣ではなく、先行者の弱点を突く戦略で差別化を図ることを決断しました。

ファイアワークは、動画の尺をTikTokの倍にあたる30秒に設定しています。さらに、投稿された内容はAIと人の目で厳重にチェックしてから公開される仕組みです。特筆すべきは「中国ではサービスを提供しない」と明言している点でしょう。これは米国内で高まるプライバシー懸念に対する明確な回答です。リスクを回避しつつ、クリエイティブな場を守る姿勢は、まさに今の時代に求められる「安心感」を象徴しています。

こうした戦略が功を奏したのか、2019年10月にはGoogleによる買収検討のニュースも報じられました。ヤン氏は明言を避けていますが、多くの投資家から熱烈なアプローチを受けているのは事実のようです。特定の企業が批判を浴びたとしても、ショート動画という形式そのものへの期待値は衰えるどころか、むしろ高まっています。既存の勢力が躓く隙を狙う「後発組」の戦略は、非常に合理的だと言えます。

ビジネスの世界では、先行者の課題を解決することが最大のチャンスになります。ループナウのような「徹底した差別化」と「安全性の強調」は、まさに現代のネットビジネスにおける勝利の方程式かもしれません。もちろん、先行者の弱みを突く手法には冷ややかな視線もあるでしょう。しかし、このしたたかさこそが、激変するIT業界で生き残るために必要な資質なのだと私は強く感じます。

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