日本の産業を支える鉄の鼓動に、変化の兆しが見えています。2019年12月3日に発表された速報値によると、国内の薄鋼板(熱延、冷延、表面処理の主要3品種)における10月末時点の在庫量は、431万6千トンまで減少しました。これは前月末と比較して13万1千トン、率にして2.9%のマイナスとなります。
特筆すべきは、この数字が2019年におけるもっとも低い水準に到達したという点でしょう。一般的に需給が安定しているとされる目安は400万トンと言われており、依然としてそれを上回る状態ではありますが、過剰な在庫を圧縮しようとする業界全体の懸命な努力が、着実に実を結び始めていることが伺えます。
SNS上では、このニュースに対して「製造業の景気判断が難しい局面だ」という声や、「在庫が減ったのは需要増ではなく供給側の調整によるものなので、手放しでは喜べない」といった冷静な分析も目立ちます。投資家や関係者たちの間でも、この在庫減が今後の鋼材価格にどう波及するかについて、熱い議論が交わされているようです。
鋼材需要の冷え込みと供給サイドの「忍耐」
そもそも薄鋼板とは、自動車のボディや家電製品、建材などに幅広く使われる厚さ3ミリ未満の鋼の板を指します。いわば経済の体温計のような存在ですが、現在は米中貿易摩擦という巨大な影が世界中に差しており、アジア全域、そして日本国内でも鋼材への需要は勢いを欠いているのが実情です。
こうした逆風の中で、鉄鋼メーカーや問屋などの流通事業者は、在庫が増えすぎて価格が暴落するのを防ぐため、生産や仕入れを意図的に抑える調整を行ってきました。過去10年のデータでは、10月の在庫は9月比で約3万トンの減少に留まるのが通例ですが、2019年10月はその平均を大きく上回るペースで在庫が削られています。
特に「問屋」と呼ばれる流通の現場では、10月だけで7万トンを超える在庫削減が進みました。これはいわば、市場にモノが溢れないように蛇口を絞っている状態といえます。編集者としての私の視点では、この「供給側の徹底した規律」こそが、現在の鋼材市況を下支えする唯一の生命線になっていると感じます。
しかし、楽観視できない要因も潜んでいます。国内勢が必死に生産を絞る一方で、海外からの安い輸入材が増加傾向にあるのです。せっかく国内で需給の蛇口を締めても、外から水が流れ込んでくるような状況は、国内メーカーにとって大きな脅威でしょう。今後の焦点は、この輸入材の動向を抑えつつ、いつ「目安」の400万トン台へ着地できるかにかかっています。
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