リニア中央新幹線の建設という壮大な国家プロジェクトが、いま静岡県で大きな転換点を迎えています。2019年11月20日、JR東海の金子慎社長は定例記者会見の場において、大井川の環境対策を議論するために進めていた静岡県内の流域市町長との直接会談が、現時点では困難になったという見解を明らかにしました。
金子社長は、今月の2019年11月13日に島田市や掛川市といった流域の10市町および静岡市に対し、直接対話の機会を設けてほしいと打診していました。しかし、自治体側からは「窓口を県に一本化しているため、個別の対応は控えたい」という慎重な回答が寄せられたとのことです。熱意を持って説明に赴こうとしたJR側にとって、この返答は予想外に厳しいものだったかもしれません。
社長は会見の中で、「自分たちの考えを丁寧に説明したかっただけに、お会いすることが叶わず非常に残念である」と、複雑な胸の内を吐露しました。このニュースが報じられると、SNS上では「地元の不安が解消されない限り、トップ会談は時期尚早ではないか」という厳しい声や、「対話のパイプが詰まってしまうのは問題だ」と懸念する意見が飛び交い、議論が白熱しています。
ここで注目すべきは、なぜ自治体側が頑なな姿勢を見せているのかという点です。議論の中心にあるのは、トンネル工事に伴う「湧水(ゆうすい)」の流出問題です。湧水とは、地中から自然に湧き出す地下水のことで、大井川周辺に住む人々や農業・工業にとっては命の水とも言える貴重な資源に他なりません。
この水資源への影響を最小限に抑える「環境対策」について、JR東海と静岡県の間では長らく激しい議論が続いています。自治体側が窓口を一本化した背景には、足並みを揃えて県全体の利益を守ろうとする強い決意が透けて見えます。バラバラに交渉に応じることで、条件に差が出たり議論が拡散したりすることを警戒しているのでしょう。
編集者の視点から言えば、この状況はまさに「信頼の構築」という土台がまだ完成していないことを示唆しています。JR東海がいくらスピード感を持って事業を推進したいと考えても、地域住民の生活の根幹である水問題が解決されない限り、物理的な距離以上に心の距離を埋めるのは容易ではありません。
金子社長は「直接お話ししたいという考えは変わっていない。今後も機会があればぜひ対話したい」と、粘り強く交渉を続ける姿勢を強調しています。この膠着状態を打破するには、単なる説明の繰り返しではなく、県と自治体が納得できるような具体的かつ透明性の高いデータの提示が、今後さらに強く求められることになるでしょう。
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