「イノベーション」という言葉が溢れる昨今ですが、それは皮肉にも日本から世界を震撼させるような技術が生まれにくくなった現状を物語っているのかもしれません。そんな閉塞感を打ち破るべく、政府が大きな一歩を踏み出します。1995年の制定以来、日本の科学の指針となってきた「科学技術基本法」が、2020年の通常国会で初めて改正される見通しとなりました。
今回の改正により、法律の名称は「科学技術・イノベーション基本法」へと生まれ変わります。まさに「名は体を表す」の通り、国を挙げた革新の実現が最大の目玉です。SNS上では「ようやく時代に追いつくのか」と期待する声がある一方で、「基礎研究が疎かになるのではないか」という現役の研究者たちによる切実な不安の声も目立っています。
人文・社会科学の融合で描く、新たな知のカタチ
2019年11月20日に内閣府の有識者会議がまとめた報告書案によれば、今回の改正では自然科学だけでなく、人文・社会科学も振興の対象に含まれます。単なる技術開発に留まらず、人間の心理や社会の仕組みを理解する「知の力」を結集させる狙いです。データ社会が加速する今、サイエンスに基づいた技術進化は、政治や金融の姿まで一変させる力を持っています。
ここで言うイノベーションとは、単なる「発明」ではなく、新しい技術やアイデアによって社会に劇的な変化や経済的価値をもたらす「変革」を指します。かつてのインスタントラーメンやウォークマンのように、人々のライフスタイルを根底から変える製品こそが、日本が再び取り戻すべき輝きです。しかし、現在の日本企業は目先の利益を優先し、挑戦的な研究から遠ざかっているのが現状です。
米国型「SBIR」導入でスタートアップを強力支援
政府は今回の法改正に合わせ、研究予算をスタートアップ企業へ重点的に配分する「日本版SBIR」の抜本的見直しも進めています。SBIRとは、政府が新興企業の技術開発を支援し、その成果を社会実装につなげる米国の制度をモデルにしたものです。これまでは中小企業への「補助金」という側面が強かったのですが、今後はバイオ系など、大学の知見を薬に変えるような橋渡し役の育成に注力します。
私が懸念するのは、実用化ばかりが優先され、全ての源泉である「基礎研究」が枯渇することです。基礎研究とは、すぐには役に立たないかもしれないけれど、世界の真理を追究する純粋な探究活動です。内閣府は「科学を守る」と明言していますが、言葉だけでなく、現場の研究者が安心して未知の領域に挑める予算と環境の確保が、改正の真の成功には不可欠でしょう。
「野生化」する技術の影、国が果たすべき真の役割とは
一方で、イノベーションには「負の側面」があることも忘れてはなりません。AI(人工知能)の進化は、私たちの仕事を奪うリスクも孕んでいます。専門家からは、格差の拡大による社会不安を懸念する声も上がっています。国がやるべきことは、華やかなプロジェクトに予算を投じること以上に、こうした変化によって取り残される人々へのセーフティネットを構築することではないでしょうか。
日本発のイノベーションを再び起こすには、短期的な成果を求める「ムーンショット」的な野心も大切ですが、それ以上に「研究の土壌」を枯らさない長期的な視点が重要です。法改正という看板の書き換えに終わらせず、産業界を巻き込みながら、基礎研究と実用化が美しく循環する国への転換を強く期待します。2019年12月10日、私たちは今、日本の科学の大きな分岐点に立っているのです。
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