アフガニスタンの大地に咲く希望の笑顔。医師・中村哲さんの遺志を継ぐ「平和の壁画」がカブールに誕生

紛争の影が色濃く残るアフガニスタンの地に、ひと際温かい色彩を放つ巨大な似顔絵が誕生しました。2019年12月4日に惜しまれつつこの世を去った、NGO「ペシャワール会」の現地代表、中村哲医師を追悼する壁画です。首都カブールの中心部にある保健省の塀に描かれたその姿は、アフガン伝統の帽子「パコール」を被り、満開の花々に囲まれて穏やかに微笑んでいます。

この壁画を制作したのは、現地の芸術家集団「アートロード」の若者たちです。彼らは2019年12月10日、総勢12名のメンバーでこの作品を完成させました。背景には日の丸が描かれ、中村さんが生涯を捧げて緑に変えた荒野と、彼が愛した日本への敬意が込められています。SNS上では「彼が残したのは水だけではなく、平和への希望そのものだ」と、世界中から感動の声が寄せられました。

壁画には、現地語であるダリー語で「この土地で私は愛と思いやりを育む種のみを植える」という美しい詩が添えられています。ここでいう「種」とは、単に植物のことではありません。干ばつに苦しむ人々のために用水路を建設し、命を繋ぐ糧を作り出した中村さんの深い慈しみの心を象徴しています。砂漠を緑に変えたその不屈の精神は、今やアフガンの人々の心に深く根付いているのです。

特筆すべきは、この壁画が描かれた場所の背景です。カブールの街中には、自爆テロなどの攻撃から建物を守るための頑丈なコンクリート塀が立ち並んでいます。本来は拒絶や恐怖の象徴であるはずの壁を、アートロードは平和を願うキャンバスへと変貌させました。殺害現場となったジャララバードにも同様の絵が描かれており、暴力に屈しない市民の強い意志がそこには表現されています。

壁画の前で足を止めた26歳の主婦、サミラさんは、警察官だった夫を戦闘で失ったばかりだといいます。彼女は中村さんの家族の悲しみに寄り添いながら、「罪のない人々を巻き込む争いはもうこりごりだ」と切実な願いを口にしました。彼女の言葉は、アフガニスタン国民が抱える共通の痛みであり、中村さんが命を懸けて止めたかった連鎖そのものでしょう。

私は、この壁画こそが復興の真のシンボルになると確信しています。武力ではなく、一本のクワと一筋の水、そしてこの壁画のような「表現」が、分断された社会を繋ぎ直す力になるはずです。中村さんの肉体はこの地で果てましたが、彼が植えた「愛の種」は、若き芸術家や悲しみを抱える市民たちの手によって、これからも枯れることなく守り育てられていくに違いありません。

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