大分県臼杵市といえば国宝の石仏が有名ですが、実はここには世界に誇るべきもう一つの「至宝」が存在しています。それは、みそ・しょうゆ製造の老舗であるフンドーキン醤油を中心とした「大分醤油協業組合」の工場で静かに時を刻んでいる、規格外の巨大な木樽です。
この木樽は、直径・高さともに9メートルという圧倒的なスケールを誇ります。その容量はなんと540キロリットルで、1リットルボトルに換算すると54万本分にも及びます。2007年にはギネス世界記録にも認定されたこの樽は、まさに職人技の結晶と言えるでしょう。
驚くべきは、釘を一本も使用せずにカナダ産の樹齢400年を超えるヒバを組み上げて作られている点です。SNS上でも「これほど巨大な樽をどうやって作ったのか」「実物の迫力がすごすぎる」といった驚きの声が、見学に訪れた人々から続々と寄せられています。
菌たちが生み出す、まろやかで奥深い伝統の味わい
なぜ、これほどの手間をかけて木樽を使うのでしょうか。池辺剛工場長によれば、「江戸時代や明治時代の醤油の方が美味しかったのではないか」という探求心が原点だそうです。現代主流のステンレス製タンクは管理が容易ですが、木樽には替えがたい魅力があるのです。
ここで専門用語である「醸造(じょうぞう)」について解説しましょう。これは微生物の力を借りて食品を発酵させる工程のことです。木樽の木肌には「酵母菌」や「乳酸菌」といった微生物が住み着いており、それらが複雑に作用することで醤油の風味を深めてくれます。
機械洗浄を行わず、菌を大切に育てることで、仕込むたびに味わいにまろやかさが増していくと言います。2019年12月06日現在、中では3年前に仕込まれた醤油が熟成中ですが、完成した醤油は塩味の「カド」が取れ、驚くほどマイルドに仕上がるのが特徴です。
国境を超えて愛される「心のこもったものづくり」
同工場の挑戦は伝統を守るだけにとどまりません。立命館アジア太平洋大学(APU)と連携し、「ハラル対応」の生産ラインも構築しています。これはイスラム教の戒律で許された食品基準のことで、約800件もの調査を経て「ハラールはちみつ醤油」が誕生しました。
工場には、創業一族の作家・野上弥生子氏による「お醤油の味はよいの」という、品質を問いかける言葉が掲げられています。効率ばかりを追求する現代において、手間暇を惜しまず、食べる人の笑顔を想像しながら作る姿勢こそが、本物の美味しさを生むのだと確信します。
現在熟成中の「世界一木樽醤油」は、2020年初夏に販売される予定となっています。厳選された国産の丸大豆、小麦、天日塩のみを使い、巨大な木樽で育まれた究極の一滴。自然の力と職人の情熱が凝縮されたその味が、食卓へ届く日が今から待ち遠しくてなりません。
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