【書評】マダム・タッソーの数奇な半生とは?小谷真理が選ぶ「逆転の発想」が光る幻想文学3選

ロンドンを象徴する観光名所として名高い「マダム・タッソーの蝋人形館」をご存じでしょうか。そこには歴史的な悪党から時の政治家まで、驚くほど精巧な有名人の像が並んでいます。ファンタジー評論家の小谷真理さんは、2019年12月19日の書評にて、この創設者の生涯を描いたエドワード・ケアリー著『おちび』を絶賛しました。SNS上でも「これほどまでに不気味で美しい物語は他にない」と、その独自の世界観に魅了される読者が続出しています。

本作の舞台は18世紀半ばのフランスです。極貧の家庭に生まれ、容姿にも恵まれなかった非常に小柄な少女が、過酷な運命に翻弄されながらも蝋人形師としての才能を開花させていく過程が描かれています。蝋人形作りには解剖学の知識や緻密な工芸技術が求められ、その工程は現代における最先端のロボット製造を彷彿とさせます。しかし、本書の真骨頂は単なる技術の習得ではなく、人間が偽物に対して抱く違和感、いわゆる「不気味の谷」を逆手に取った点にあります。

「不気味の谷」とは、ロボットなどの造形が人間に近づくほど、ある一点で強い嫌悪感を抱かせる現象を指す専門用語です。主人公はあえてそのグロテスクさを強調し、人々を惹きつける力へと昇華させました。この逆転の発想こそが、現代の私たちにとっても刺激的な教訓となるでしょう。小谷さんが「極上の逸品」と称える通り、アナログな手法で生み出される幻想的な語り口は、読者を深い思索の旅へと連れ出してくれるはずです。

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80年代の熱狂から中世の謎解きまで!知的好奇心を刺激する珠玉の選書

続いて紹介されたのは、山口雅也氏の才能が凝縮された『ミッドナイツ』です。本書は1980年代の作品を網羅したバラエティブックで、ホラーやSFといったジャンルを越境して活躍する著者の魅力が詰まっています。収録されたインタビューからは、まさにバブル期特有の爛熟した熱気と、文化的な勢いを感じ取ることができるでしょう。時代の転換点を肌で感じてきた著者だからこそ描ける、エネルギッシュな表現の数々は今読んでも色あせることはありません。

さらに、川添愛氏の『聖者のかけら』も見逃せません。ルネッサンス前夜のアッシジを舞台に、聖フランチェスコの死後に起きた「奇蹟」の謎に迫る物語です。キリスト教の伝説や歴史的な背景を巧みに織り交ぜた展開は、本格的な伝記小説を読んでいるかのような重厚な満足感を与えてくれます。謎解きのスリルと宗教史の深みが同居する本作は、知的なエンターテインメントを求める読者にとって、最高の贈り物となるに違いありません。

小谷真理さんの選書に共通しているのは、単なる物語の面白さだけではなく、歴史や技術、心理学的な深みが背景にある点です。個人的には、特に『おちび』が提示する「弱点を強みに変える視点」に強く惹かれました。現代社会においても、コンプレックスを独自の武器に変える知恵は非常に重要ではないでしょうか。今回紹介された3冊は、冬の夜長にじっくりと腰を据えて、ページをめくる喜びを再確認させてくれる素晴らしい作品ばかりです。

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