「消臭力」や「ムシューダ」という、誰もが一度は耳にしたことのあるヒット商品を持つエステーが、いま劇的な変化を遂げています。2013年に就任した鈴木貴子社長は、かつて外資系高級ブランドのマーケティングで培った手腕を振るい、日用品に「上質感」という新たな息吹を吹き込んでいます。単なる安さではなく、心に刺さる「情緒的価値」を追求するその姿勢は、SNSでも「消臭力のパッケージが最近すごくお洒落」「プレミアムアロマの香りが芳香剤の域を超えている」と、感度の高い層を中心に大きな反響を呼んでいるのです。
鈴木社長が特に重視しているのが、デザインによるブランドの再構築です。2019年12月23日時点の戦略として、彼女は「日用品は安ければいいという常識は面白くない」と断言します。例えば「消臭力 プレミアムアロマ」シリーズは、従来の消臭剤にはなかった柔軟剤のようなグラフィックを採用し、一目で「これまでの香りと違う」と直感させる工夫が凝らされています。ユーザーに寄り添い、買い物という体験をエンターテインメントへと昇華させる戦略は、価格競争に疲弊する現代の市場において非常に鋭い視点だと言えるでしょう。
空気という資産を立体的に広げる「BtoB」への挑戦
鈴木社長の視線は、一般消費者向けのBtoC(企業対消費者)市場にとどまりません。彼女が提唱するのは、空気を軸とした「立体的」な事業拡大です。その核となるのが、北海道のトドマツから抽出した成分を活用した「クリアフォレスト」です。これは森林由来の成分で、消臭だけでなく心身をリラックスさせる効果も期待されています。この成分をパウダー状にして他社のゴミ袋に練り込んだり、エアコンフィルターに応用したりといった、他企業との連携によるBtoB(企業対企業)ビジネスの開拓に強い意欲を見せています。
さらに、変化するライフスタイルへの対応も柔軟です。サブスクリプション(定額制サービス)やフリマアプリの普及により、衣服を所有しない若者が増えるなかで、鈴木社長は「マンションそのものにアロマ機能を組み込む」といった壮大な提案も視野に入れています。また、クリーニング店や衣料品レンタルサービスに防虫剤を提供するなど、時代に合わせた販路の開拓を加速させています。現状に安住せず、既存の「日用品メーカー」という枠組みを自ら壊そうとするエネルギーこそ、エステーの強みなのかもしれません。
「温活」で暖冬を乗り越える。常識を覆すマーケティング術
2019年3月期の連結決算では、暖冬の影響でカイロなどの季節商品が苦戦を強いられました。しかし鈴木社長は、これを「社員への良い薬」と前向きに捉えています。気候変動に左右されない体質を作るため、彼女が打ち出したのが女性向けの「温活」アイテムです。これは血流を改善して内面から美しくなるというヘルスケアのコンセプトを持ち、従来のホームセンターではなく、ドラッグストアの生理用品売り場や雑貨店に並べることで、新しい顧客層を開拓しました。「同じ商品でもターゲットを変えれば別物になる」という考え方は、マーケティングの本質を突いています。
一方で、女性の人材登用については「まだまだ不十分」と厳しく自己評価されています。ユーザーの7割以上を女性が占めるからこそ、意思決定層に女性を増やすことで、かつての「便器のイラスト付き商品」のような作り手本位のデザインを脱却しようとしています。私が思うに、鈴木社長の凄みは「ラグジュアリーの感性」と「現場の泥臭い改革」を両立させている点にあります。自らを「まだチョウに脱皮していない芋虫」と例える謙虚な姿勢の裏には、創業家の伝統を受け継ぎつつも、新しいエステーを創り上げようとする強い執念が感じられます。
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