【俵屋宗達】舞楽図屏風に宿る「目で見える音楽」とは?リズムが躍動する金箔のポリフォニー

音楽や文芸の鋭い批評で知られる小沼純一氏が、視覚を通じて音を感じさせる稀代のアートについて語っています。今回スポットが当てられたのは、17世紀前半に制作されたとされる江戸初期の天才絵師、俵屋宗達による傑作「舞楽図屏風」です。この作品は、単なる伝統芸能の記録画にとどまらず、画面全体がまるでひとつの楽曲のように脈動している点が大きな特徴といえるでしょう。

京都の醍醐寺に伝わるこの屏風には、5つの舞楽演目が鮮やかに描き出されています。SNS上でも「金地の余白がまるで音の広がりのよう」「静止画なのに楽の音が聞こえてくる」といった驚きの声が上がっており、時代を超えて人々の感性を刺激し続けています。描かれた舞人たちの装束や、しっぽのように伸びる「闕腋袍(けってきほう)」という身分の高い武官が用いる束帯が、それぞれの動作に合わせて優雅なリズムを刻んでいるのです。

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西洋とは異なる日本独自の多声的音楽空間

宗達が描く世界には、西洋絵画のような科学的な遠近法は見当たりません。しかし、そこには日本独自の特殊な時間と空間の感覚が息づいています。画面を横断するように配置された松の枝ぶりから、右下に一部が隠れるように置かれた大太鼓や大鉦鼓(しょうこ)という雅楽に欠かせない打楽器へと視線を誘導する構成は、まさに計算された旋律のようです。人物は平面的でありながら、その手足のひねりには強烈なエネルギーが宿っています。

小沼氏は、この作品を「ポリフォニー」という言葉で表現しています。ポリフォニーとは、複数の独立した旋律が調和しながら同時に進行する「多声音楽」を指す音楽用語です。この屏風では、人物や樹木、そして楽器といった具体的なモチーフが、何もないはずの金色の背景(間)と響き合い、独自の多重構造を形作っています。写実を超えた先に、複数の時間が重なり合う不思議な奥行きが生まれているといえるでしょう。

2019年12月12日現在、この作品が放つ魅力は、音が存在しないからこそ鑑賞者の想像力の中で自由に膨らんでいく「伸縮自在な時空」にあります。上空から俯瞰した視点と、流れるような時間の推移がひとつの画面に凝縮された奇跡。俵屋宗達という絵師は、筆一本で静寂の中に壮大なオーケストラを構築してしまいました。視覚と聴覚が交差するこの圧倒的な芸術体験は、現代の私たちにも深い感動を与えずにはいられません。

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