世界経済のパワーバランスが大きく揺れ動く中、日本企業のグローバル戦略に暗い影を落としているのが激化する米中摩擦です。2019年12月16日に発表された企業法務・弁護士調査の結果によれば、安全保障上の懸念からM&A(企業の合併・買収)や投資活動を断念せざるを得なかった企業が合計で4社に上ることが判明しました。これまではスムーズに進んでいた国境を越えたビジネスが、政治的な駆け引きのなかで足止めを食らっている実態が浮き彫りになっています。
特に注目すべきは、対米外国投資委員会(CFIUS:セフィアス)による審査の影響です。これは、外国企業による米国への投資が国家安全保障に脅威を与えないかを厳しくチェックする政府機関の仕組みを指します。今回の調査では、断念の理由として「CFIUSなどの米投資規制」を挙げた企業が2社存在し、さらに米国の輸出規制や制裁関税を理由とするケースも確認されました。審査範囲の拡大により、日本企業が橋渡し役となるような案件さえも厳しい監視の目に晒されています。
象徴的な事例として、東芝が進めていた米国液化天然ガス(LNG)事業の売却計画が挙げられます。当初は中国の民間ガス大手であるENNグループへの売却を予定していましたが、CFIUSの審査遅延などが重なった結果、2019年4月に断念を発表しました。また、ある総合商社も2018年末に米国鉄工関連会社の中国企業への売却を模索したものの、規制当局による厳しい審査を予見して取引を撤回しています。SNS上では「もはや純粋な経済合理性だけでビジネスは語れない」と驚きの声が広がりました。
巧妙化する規制への対抗策とロビー活動の重要性
厳格化の一途をたどる米国の投資規制に対し、日本企業も手をこまねいているわけではありません。具体的な対応策として最も多く選ばれたのは、米国の政治的中枢であるワシントンなどで強い影響力を持つ法律事務所への相談でした。29社もの企業が、現地のロビー活動(政策決定者に働きかけを行う交渉術)に精通した専門家を頼りにしています。法的な適合性だけでなく、政治的な力学を読み解くことが、現代のグローバル経営には不可欠なスキルとなっているのです。
次いで多かった対策は、23社が回答した「米当局への事前相談」です。不承認のリスクを最小限に抑えるため、正式な申請前に当局との対話を試みる慎重な姿勢が見て取れます。個人的な見解を述べさせていただくと、こうした動きはもはや一過性の摩擦ではなく、経済と安全保障が一体化した「経済安全保障」時代の幕開けを象徴していると感じます。企業は今後、単なる利益追求を超えて、地政学的なリスクを経営の根幹に据える必要があるでしょう。
米中という二大巨頭の対立に挟まれ、日本の法務部門にはかつてないほどの重圧がかかっています。しかし、この荒波を乗り越えるための知恵とネットワークを構築することは、日本企業が真にグローバルな競争力を維持するための試練とも言えます。投資規制の壁をどう突破し、柔軟なサプライチェーンを再構築できるのか。刻々と変化する国際情勢のなかで、企業の「目利き力」と「交渉力」が今、かつてないほどに問われていることは間違いありません。
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