中国経済がいま、非常に複雑な局面を迎えています。中国政府が2020年1月9日に発表した2019年の消費者物価指数(CPI)は、前年と比べて2.9%も上昇しました。この数字は2011年以来、実に8年ぶりの高い水準となります。CPIとは、私たちが日常生活で購入するモノやサービスの価格の動きをまとめた経済指標のことです。この指標が大きく跳ね上がった背景には、中国の食卓に欠かせない、ある食材の深刻な品不足が関係しています。
物価高騰の主犯となったのは、中国全土で猛威を振るったアフリカ豚コレラ(ASF)です。この致死率が極めて高い豚の伝染病によって多くの豚が殺処分され、市場の供給量が激減しました。その結果、2019年の豚肉の年間平均価格は前の年と比べて42%も急騰する事態に発展したのです。特に2019年12月だけで見ると、前年の同じ月と比べて97%という驚異的な値上がりを記録しており、庶民の家計を直撃している様子がうかがえます。
SNS上でもこの状況に対する嘆きの声が溢れており、「お肉が高すぎて大好きな餃子が気軽に作れない」「春節のごちそうを用意するのが経済的に厳しい」といったリアルな悲鳴が目立ちます。中国では2020年1月下旬に最大の伝統祝日である「春節(旧正月)」を控えており、親族が集まるこの時期は食材の需要が爆発的に高まります。李克強首相が2020年1月8日の会議で価格安定に全力を挙げるよう指示したことからも、政府の強い危機感が伝わるでしょう。
経済減速とインフレの板挟み!中国政府が直面する苦肉の選択
さらに事態を深刻にしているのが、製造業を中心とした景気の減速です。企業の取引価格を示す卸売物価指数(PPI)は、2019年通年で前年比0.3%下落し、3年ぶりにマイナスへ転じました。これは工場で作った製品が売れず、価格を下げざるを得ない不況のサインです。このように、景気が停滞しているにもかかわらず物価だけが上昇していく現象は「スタグフレーション」と呼ばれ、最も舵取りが難しい経済状態の一つとされています。
本来であれば、景気を支えるために中央銀行は利下げを行い、世の中にお金を回したいところです。しかし、不用意にお金を増やすと、今度は豚肉を発端とした物価上昇(インフレ)にさらに火をつけてしまう危険性があります。中国人民銀行もインフレへの警戒を強めており、大胆な金融緩和には動きづらいのが現状です。利下げという特効薬が使えない中で、民間企業の資金繰り倒産や雇用への悪影響をどう防ぐのか、政府は非常に厳しい決断を迫られています。
私は、今回の危機は単なる一時的な不運ではなく、食料供給網の脆弱性と金融政策の限界を露呈したものだと考えます。豚肉という一品目の高騰が国全体の経済政策を縛る現状は、あまりにもリスク管理が甘いと言わざるを得ません。政府は一刻も早く輸入ルートの拡大や代替肉の普及を進め、食料の安定供給を構造から見直すべきです。2020年の物価目標「3%前後」の達成は極めて困難であり、中国経済はしばらく茨の道を歩むことになるでしょう。
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