国内外を問わず、イスラエルやアフリカなど世界を股に掛けて活躍する投資家がいます。インキュベーターとして数々の若き才能を育てるサムライインキュベートの創業者、榊原健太郎氏です。各地で熱弁を振るう彼が、熱意に溢れる学生や起業家から頻繁に投げかけられる問いがあります。それは、一体何のためにそこまで情熱を燃やし、努力を続けられるのかという疑問です。若き日の榊原氏は、高収入や自己成長を目標に掲げていました。しかし、会社を設立してからはその真意が変化していきます。
そんな折、東北の起業家を支援するイベントで、あるスタートアップの経営者が放った言葉に榊原氏は深く共感しました。「40歳を過ぎると、遺伝子が自分にもっと挑戦しろと語りかけてくる」という重みのある一言です。この発言をきっかけに、彼は自身のルーツを深く掘り下げることになります。榊原氏は明治時代から続く名古屋の琴三味線屋の家系に誕生しました。家系の歴史を紐解くうちに、先祖から受け継がれた目に見えないバトン、すなわちDNAの存在を強く意識するようになったのです。
榊原氏の祖父は、歴史上もっとも過酷な戦いの一つとして知られるインパール作戦により命を落としました。その時、彼の父親はまだ祖母のお腹の中にいたのです。父親の名前である「征勝」には、戦地に赴いて勝利を収めてほしいという、悲痛な時代の願いが込められていました。戦死した若者たちの遺書が展示されている知覧特攻平和会館を訪れた際、榊原氏は「征ってきます」という言葉の多さに衝撃を受けます。寡黙だった父親が背負っていた、文字通り命懸けの重い歴史に直面した瞬間でした。
父親の顔を知らずに育った彼の父親は、榊原氏に対して家業を継ぐよう強制することは一切ありませんでした。自由な道を歩ませてくれた父親への感謝が、彼の胸には深く刻まれています。この凄惨な歴史を振り返ることで、榊原氏の志はより強固なものへと昇華されました。祖父たちが味わったような戦争の悲劇を二度と繰り返してはならないという、強い決意です。負の連鎖を断ち切り、世界中の人々が健康で、笑顔で溢れる社会を築くことこそが、彼の真の目的となりました。
ここで言う「インキュベート」とは、単にお金を出すだけでなく、生まれたばかりの企業の成長を卵を温めるように手厚く支援することを意味します。榊原氏は、自分一人の力で世界を救うには時間が足りないと考えています。だからこそ、起業や事業の創出を支えるビジネスを展開しているのです。新興国や発展途上国で多くの雇用を生み出し、経済を循環させることで、何十億人もの人々を幸福に導くことができると確信しています。これこそが、彼の心を動かす壮大なビジョンです。
インターネット上のSNSなどでは、この榊原氏の情熱的な姿勢に対して「壮絶な過去をエネルギーに変える姿に感銘を受けた」「自分の働く理由を見つめ直すきっかけになった」といった、感動と共感の声が多数寄せられています。私たちは日々の忙しさに追われ、働く目的を見失いがちです。しかし、自分が今ここに存在する意味や、先祖から受け継いだ命のつながりに思いを馳せることで、表面的な欲求ではない、自分だけの「本当の原動力」が見つかるのではないでしょうか。
筆者である私も、彼の言葉に深く胸を打たれました。ビジネスを単なる利益追求の道具として捉えるのではなく、世界から貧困や争いをなくすための「平和の手段」として活用する姿勢は、現代のすべてのビジネスパーソンが見習うべき高潔な思想です。1974年に生まれ、大手医療機器メーカーやIT企業を経て2008年に現在の会社を立ち上げた榊原氏の挑戦は、これからも世界中を明るく照らし続けるに違いありません。皆さんも、自身のDNAに眠る情熱の源を探してみてはいかがでしょうか。
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