米国のフードビジネス界に、今まさに巨大な地殻変動が起きています。配車大手ウーバー・テクノロジーズの創業者であるトラビス・カラニック氏が、2019年12月中旬までに自身の持つウーバー株の9割以上を売却したことが判明しました。売却総額は25億ドル、日本円にして約2700億円を超える巨額の資金です。市場では、彼がこの莫大な資金を投じて「次の仕掛け」に本腰を入れていると、大きな噂になっています。
カラニック氏が情熱を注ぐ新事業こそが、今ネットやSNSでも「次世代のインフラだ」「店舗の概念が変わる」と大注目を浴びている「ダークキッチン(ゴーストキッチン)」です。この言葉は、客席を持たず、インターネットからの注文と宅配だけに特化した、料理の調理専門施設を意味します。1つの施設内に複数の異なる飲食店の厨房が集約されており、効率よく調理代行を行う仕組みが特徴となっています。
SNSでは「お店に行かずに名店の味が楽しめるのは最高」「これからの飲食店の標準スタイルになりそう」といった好意的な声が溢れる一方、「実店舗の温かみが恋しくなる」という意見もあり、議論を呼んでいます。ウーバーイーツの運営を通じてこの市場の潜在能力を確信したカラニック氏の「クラウドキッチン社」を筆頭に、400カ所の展開を狙う「キッチン・ユナイテッド社」や、自社開発を進める大手「ウェンディーズ」などが参入を競っています。
拡大する外食宅配市場と若年層の行動変容
こうした革新的なビジネスモデルが成立する背景には、ウーバーイーツやグラブハブといった外食宅配を担うプラットフォーム企業が急成長し、網の目のように強固な配送ネットワークを構築した事実が存在します。現在の市場規模は約130億ドルですが、2022年までに245億ドルへと、ほぼ倍増する見通しです。この驚異的な成長を投資家たちも見逃さず、年間35億ドル以上の巨額資金がこのセクターへ注ぎ込まれています。
驚くべきことに、運ぶ側である外食宅配企業の時価総額が、作る側の外食企業を凌駕する逆転現象も起きています。この市場を強力に牽引しているのは、デジタルネイティブである若い世代です。スマートフォンでためらいなく食事を注文し、自宅でレストランの味を楽しむ姿が日常風景となっています。私自身、彼らの驚くほど自然な利用スタイルを目の当たりにし、この利便性は一過性のブームではなく、不可逆な文化になると確信しています。
スーパーの総菜と激突!始まったシェア争奪戦
日本で「中食(家庭外で調理された食品を自宅で食べる文化)」と呼ばれるこの市場の拡大は、従来の食品小売業、特にスーパーマーケットの総菜部門に深刻な脅威を与え始めています。自宅に居ながらにしてプロの味を手軽に楽しめるのであれば、わざわざスーパーの惣菜を買いに行く必要性が薄れるからです。この危機感をいち早く察知した高級スーパーの「ウェグマンズ」は、独自のデジタルオーダーに乗り出しました。
ウェグマンズは2019年4月末から「ウェグマンズ2ゴー」という専用アプリを開始し、店内で調理したピザや寿司などを、宅配企業ドアダッシュと提携して届ける試みを始めています。さらに大手チェーンの「クローガー」も、自社でダークキッチンの開発と実験を行うと表明しました。外食宅配とスーパーの総菜デリバリーが、本格的に激突する時代の幕開けです。食の境界線が崩れる米国市場から、今後も目が離せません。
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