テレビの常識が大きく変わる瞬間が、いよいよやってきます。総務省は2020年1月14日、NHKが申請していたテレビ番組のインターネット同時配信に関する実施基準案を正式に認可しました。これにより、2020年4月からパソコンやスマートフォンでNHKの番組をリアルタイムに視聴できるようになります。ネット上では「外出先でもニュースが見られて便利になる」「受信料の二重徴収にならないか心配」など、期待と不安が入り混じった多様な反響が巻き起こっています。
今回の決定は、放送と通信の融合を加速させる歴史的な一歩です。しかし、手放しでは喜べない課題も山積しています。特に大きな問題となっているのが、公的な支援を受けるNHKの「肥大化」に対する懸念です。NHKは法律によって守られた特殊法人であり、一般的な企業が支払う法人税が免除されるなど、税制や規制の面で圧倒的な優遇措置を受けています。こうした強力な組織がネットの世界に本格参入することに対し、民間企業からは警戒の声が上がっています。
圧倒的な財政力と民放各社が抱える危機感
ここで注目すべきは、NHKと民間放送局(民放)との間にある巨大な財政格差です。2018年度のデータを見ると、NHKの放送経費が3466億円であるのに対し、民放トップの日本テレビ放送網でも制作費は977億円にとどまります。じつに3倍以上の開きがあるのです。この潤沢な資金の源泉となっているのが、2017年に最高裁判所が「合憲」と判断した受信料制度です。現在、NHKの受信料収入は約7000億円に達しており、右肩上がりで増加を続けています。
こうした背景から、総務省は認可にあたり厳しい条件を突きつけました。ネット業務にかかる費用が膨らまないよう、具体的な抑制策や効率化のプランを提示することや、民放との協議の場を設けることを義務づけています。これを受けてNHKは計画を縮小せざるを得なくなりました。当初予定していた受信料収入の3.8%という費用上限を2.5%程度へと引き下げ、配信時間も「常時」ではなく、1日17時間を軸とする方向で調整を進めています。
海外の先行事例が示す公共放送の功罪
NHKがモデルとして見据えているのは、イギリスの公共放送「BBC」の成功事例です。BBCは2007年からネット同時配信をいち早くスタートさせ、若者層の取り込みに成功しました。テレビ離れが進む日本において、NHKが同様の戦略をとることは理解できます。しかし、イギリスではBBCの存在感が大きすぎるあまり、強力な民間コンテンツ企業が育ちにくいという副作用も生じています。公共放送の肥大化は、市場の健全な競争を阻害しかねないのです。
世界的なトレンドを見ても、メディアの主役が交代しつつあるのは明白です。「インターネットトレンド2019」によれば、米国では2019年にモバイルの利用時間がテレビを初めて逆転しました。日本でも博報堂DYメディアパートナーズの2019年の調査で、スマホなどの接触時間が146.4分となり、テレビの153.9分に肉薄しています。ネットフリックスのような世界企業が躍進するいま、国内の競争力を削ぐような偏った市場環境は避けるべきでしょう。
編集部の一言:いまこそメディア全体のあり方を議論する時
今回のネット同時配信の解禁は、視聴者にとって利便性が高まる素晴らしいニュースに見えます。ただ、私はこの変化が日本のコンテンツ産業全体の衰退を招かないか、強い危機感を覚えます。民放連の大久保好男会長が「節度ある運営」を求めたように、ルールなき拡大は民放の体力を奪うだけです。潤沢な受信料に守られたNHKだけが一人勝ちする構造は不健全ではないでしょうか。視聴者のライフスタイルが変わるいまこそ、日本のメディアの未来像を議論すべきです。
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