江戸時代の正月遊びとは?鳥居清長の浮世絵から紐解く粋な新年の過ごし方

新しい年を迎えると、誰もが晴れやかな気持ちになるものです。2020年01月15日に太田記念美術館の主幹学芸員である渡邉晃氏が紹介した鳥居清長の「正月遊び」という浮世絵は、まさにそんな新春の躍動感を今に伝える名作でしょう。武家屋敷と見られる格式高い場所で、女性たちがさまざまな正月の伝統行事に興じる姿が描かれています。画面上部の額に掲げられた「娯楽亭」という文字が、この空間の楽しげな雰囲気を雄弁に物語っているようです。

SNS上でも「当時の女性たちの華やかな日常が伝わってくる」「着物の柄や細部まで美しい」と大きな反響を呼んでいます。手前の庭に視線を移すと、そこでは振袖をまとった若い女性と少女が、夢中になって羽根突きを楽しんでいる姿が目に飛び込んできます。中空を舞う羽根を真剣に追いかける彼女たちの視線が、画面に心地よい躍動感を与えているのを感じずにはいられません。この羽根突きは、室町時代にはすでに宮中の行事として行われていたと言われています。

それが江戸時代に入ると、女の子たちの間で親しまれる代表的な正月の風物詩へと発展を遂げました。さらに縁側へと目を向けると、そこには手鞠を大切そうに抱えた少女が静かに座っています。画面の右手では、可愛らしい室内犬が転がる毬にじゃれついており、なんとも微笑ましい日常のひとコマが描かれているのです。このように手鞠を使った「鞠つき」もまた、江戸時代の女の子たちにとって欠かせない新年の娯楽として広く愛されていました。

現代の私たちが失いかけている、ゆったりとした豊かな時間がそこには流れています。さらに部屋の奥へと視線を進めると、女性たちが「盤双六」というゲームに熱中している様子が描かれています。これは、サイコロを振って自分の交差点を進め、全てのコマを早くゴールさせる「バックギャモン」と呼ばれる世界のボードゲームと同系統のものです。日本にはなんと7世紀頃という非常に古い時代に伝来したとされており、歴史の深さに驚かされます。

江戸時代にも盛んに遊ばれていましたが、幕末になると、浮世絵師たちが華やかな下絵を描いた色鮮やかな「絵双六」が台頭しました。誰もが手軽に楽しめる絵双六が正月の定番となったことで、伝統的な盤双六は次第に姿を消していくことになります。時代のニーズに合わせて遊びの文化が進化していく様子は、現代のゲームカルチャーの変遷にも似ていて非常に興味深いですね。また、部屋の奥には琴や歌ガルタの箱らしきものも見えます。

これらは当時の教養や風雅な暮らしぶりを象徴するアイテムであり、新春の格調高さをさらに引き立てています。この魅力的な世界を描き出したのが、浮世絵師の鳥居清長です。1752年に生まれ、1815年まで活躍した彼は、すらりとした八頭身の美しい女性たちを複数配置する「美人群像表現」の第一人者として知られています。まさに1781年から1789年の天明期にかけて、浮世絵界のトップランナーとして一時代を築き上げました。

今回の作品でも、大勢の女性たちが新年のひとときを生き生きと楽しむ様子が、見事な構図で捉えられています。私は、この作品が単なる風俗画を超えて、当時の人々の「豊かさの基準」を現代の私たちに提示していると感じます。物質的な豊かさだけでなく、季節の行事を全力で楽しむ心の余裕こそが、清長の描く美しさの源泉なのではないでしょうか。忙しい現代だからこそ、こうした粋な新年の過ごし方を見習いたいものですね。

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