ファッションの最先端を走るイタリア・ミラノから、驚くべき食のトレンドが到着しました。これまで独自の食文化に強い誇りを持ち、海外の味に対して非常に保守的だったミラノの街に、今まさに劇的な変化が訪れています。
その変化の決定的な引き金となったのが、2015年に開催されたミラノ万国博覧会です。この一大イベントをきっかけに、現地の人々は異国の豊かな食文化の魅力に目覚めました。現在では若者だけでなく、これまで海外に全く関心のなかった中高年層までもが、まるで長年のこだわりが弾けたかのように、新しい食体験を求めて未知の外国料理店へ足を運んでいます。
インターネットでの格安航空券の予約が当たり前になり、旅が身近になったこともこの傾向を後押ししているのでしょう。統計データによると、2015年にはイタリア人の海外旅行先としてフランスが全体の13.8%を占めて圧倒的1位でしたが、翌2016年にはわずか1%へと激減しました。
その一方で、2015年にはわずか1%だったキューバへの旅行者が2016年には15%へと急増し、オマーンも0.9%から12%へと躍進しています。2018年の外国旅行の泊数も前年比で3%増加しており、心地よい国内に留まっていたイタリア人が、今や頻繁に世界へと飛び出しているのです。こうした旅の経験が、イタリア料理一辺倒だった彼らの食生活を劇的に変える原動力となっています。
アジアや南米の風が吹く!ミラノを彩る非西欧圏のモダンレストラン
現在のミラノで特に際立っているのは、アジアや中近東、南米といった非西欧圏の料理を提供するレストランの急増ぶりです。SNS上でも「ミラノでこんなに本格的な異国の味が楽しめるとは思わなかった」と、感嘆の声が多数上がっています。
例えば、2019年の「ラテンアメリカ・ベストレストラン50」に選出されたペルー料理店「マイタ」の系列店である「パチフィコ」や、インドのスターシェフが手掛ける「チッタマーニ」が話題です。さらに、中国人が経営しミシュランの一つ星を獲得した日本料理店「イヨ」など、いずれも異国情緒あふれるモダンな空間と、英語やフランス語を完璧に操る洗練されたサービスで人気を博しています。
変化は高級店だけにとどまりません。著名な実業家が有機飼料で育てた良質な豚肉を使用する、中国人経営のギョーザ専門店(テイクアウト式)には連日長蛇の列ができています。地元のファンの間では、格式高い高級イタリア料理店「クラッコ」の新店に通うことよりも、こうしたストリートフードのような屋台店に足を運ぶことの方が、はるかに洗練されていて格好良いと考えられているほどです。
ここで注目したい専門用語が「ヴィーガン」です。これは肉や魚だけでなく、卵や乳製品、ハチミツなども一切口にしない完全菜食主義を指します。ミラノのファストフード界では、このヴィーガンに対応した最先端のサンドイッチや、肉の種類・量を自由にカスタムできるハンバーガーなど、個人のライフスタイルに寄り添った独自の進化が見られます。
こうした革新的な店をビジネスとして成功させている経営者の多くは、名門ボッコーニ大学で経済を学び、海外経験を積んだ30歳前後の若者たちです。彼らは、これからの時代における新たな可能性を「食」の分野に見出しているのでしょう。若い感性が街の食文化をアップデートしていく様子は、見ていて本当にワクワクします。
移民カルチャーの輝きと、お茶カルチャーの新たな夜明け
さらに食生活の変容は、社会構造にもポジティブな影響を与えています。スマートフォンを片手にバイクや自転車で街を駆け巡るフードデリバリーの配達員の多くは、アフリカからの移民の人々です。健康志向の市民に向けた、特殊な圧力で野菜や果物の栄養を丸ごと搾り出す「コールドプレスジュース」の配達需要なども生まれ、彼らの貴重な雇用の場となっています。
また、伝統的なエスプレッソ文化にも変化の兆しが現れました。単一の産地から仕入れたこだわりのお茶やコーヒーを提供するカフェが誕生し、特に緑茶への関心は右肩上がりです。抹茶専門チェーン「マッチャ」も街中で目立つようになりました。
日本のような静寂を楽しむ雰囲気とは異なりますが、イタリアを代表する人気ブロガーがテレビで「健康のために毎日抹茶を飲んでいる」と発言したことで、健康意識の高い人々が一気にその虜になりました。インフルエンサーの影響力は、万国共通で凄まじいものがあります。
驚くべきは、2019年10月にファッショナブルなサンマルコ通りにオープンした、ミラノ初の中国茶専門店「シンチャ」の存在です。中国人の女性オーナー2人が営むこの美しい茶房では、お揃いの缶に並んだ茶葉や作家ものの茶器が飾られ、中国茶の淹れ方を美しい「儀式」として披露しています。
「コーヒーとの真っ向勝負はせず、お茶の文化そのものを売る」という彼女たちの賢明な戦略は、異文化を愛する富裕層の口コミで広がり、一流のマンダリンオリエンタルホテルでイベントを開催するまでの成功を収めました。
モロッコ料理店「リヤド・マジョレッレ」を営む3姉妹の活躍も象徴的です。予算の限りを尽くして自分たちでデザインした25席の小さな店内は連日満席で、爽やかなミントティーや伝統菓子が愛されています。かつては偏見に晒されがちだった国の人々が、自国の文化に誇りを持って発信し、それがミラノ市民に温かく受け入れられている現状は、この街の多様性と成熟度を物語っていると言えるでしょう。
これほど多様な文化を受け入れるミラノの姿勢は本当に素晴らしいと感じます。しかし同時に、現代の消費サイクルは非常に早く、店舗の入れ替わりもかつてない激しさを見せています。このままミラノが世界の味に対してさらに門戸を広げていくのか、あるいは伝統的なイタリア料理へと回帰していくのか、これからの動向から目が離せません。
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