グローバル化とデジタル化という巨大な波が、あらゆる産業の足元を激しく揺さぶる時代が到来しています。これまでの常識が通用しない「ディスラプション(破壊的変革)」を乗り越えるため、いま最も注目されているのが「人材の再教育」です。2020年1月20日、私たちはまさに人づくりの大競争元年に立ち会っていると言えるでしょう。SNS上でも「これからの時代、学び直しができない企業は生き残れない」「社員への投資額が企業の未来を左右する」といった、人材育成の重要性に共感する声が数多く上がっています。
AIを使いこなす!三井住友海上が挑む「全員合格」のデジタル研修
損害保険大手の三井住友海上火災保険は、2020年2月から人工知能(AI)を活用した最先端の営業支援システム「MS1ブレイン」を本格的に導入します。全国4万店、80万人におよぶ代理店をデジタル技術で武装させ、顧客の潜在的なニーズに最も適した商品を自動で導き出す画期的な試みです。しかし、どれほど優れたシステムであっても、それを自在に操る人間がいなければ宝の持ち腐れになってしまいます。そこで同社は、いち早く2018年度からデジタル対応の「リカレント教育(社会人の学び直し)」をスタートさせました。
この大胆な改革のきっかけは、同社の船曳真一郎取締役と、東洋大学で情報連携学部(INIAD)を創設した坂村健氏との対話から生まれました。「社内の人間を鍛え直すことこそが、デジタル化への近道である」という確信のもと、2018年度から2019年度にかけて、すでにグループ総勢330人の社員がこの最先端の門を叩いています。研修では、データ解析のプロを育てるコースから経営層向けまで用意され、平日の5日間を完全に「缶詰め」状態で没頭する、極めて密度の高いカリキュラムが組まれています。
さらに、自社の実際のデータを用いた特製教材を使用することで、受講者のモチベーションを極限まで高める工夫も凝らされました。驚くべきことに、研修を機に「Python(パイソン)」と呼ばれる人気のプログラミング言語を自主的に学び、独自のアプリ開発に挑む若手社員も現れています。ビッグデータを駆使したリスク分析ビジネスが拡大する中、こうしたデータサイエンティストの活躍の場は広がる一方でしょう。1人あたり数十万円の費用をかけ、10年をかけて若手全員にチャンスを与えるこの一歩は、業界全体の底上げに繋がる英断です。
日立やシスメックスも!億単位の投資で世界に挑む企業たち
人材への投資を加速させているのは、保険業界だけではありません。日立製作所は、2021年度までに国内外で3000人規模のデータサイエンティストを育成する壮大な計画を推進しています。国内主要グループ会社を含めた従業員1人あたりの教育投資額は12万7800円に達し、前年度比で8%も増加しました。また、神戸に本拠を置き、時価総額約1兆6000億円を誇る医療機器大手のシスメックスも、この10年間で国内の研修費を4倍に増額しています。変化の速い現代、従来の手法に固執していては勝機を逃してしまうのです。
日本の戦後復興を支えたのは、資源なき国における「人という資産」でした。しかし、バブル崩壊以降の日本企業は目先の利益を優先し、人を育てる投資を怠ってきたと言わざるを得ません。国内総生産(GDP)に対する人的投資の比率は、2015年までの平均でわずか0.4%弱と、国際的に見ても極めて低い水準に低迷しています。非正規雇用の拡大もこの傾向に拍車をかけ、特にサービス業などの非製造業での投資減少が深刻です。これこそが、日本のデジタル化が遅れてしまった最大の原因ではないでしょうか。
「教育費を増やすと、短期的には利益を圧迫するため株価が下がりやすい」という見方もあります。しかし長期的に見れば、社員の満足度が高く、能力開発に熱心な企業の株価は後から大きく上昇し、市場平均を超える高いリターンをもたらすことが実証されています。これからの若者は、終身雇用や年功序列よりも「自分を成長させてくれる環境」を求めています。今こそ、目先のコストに囚われず、人への投資を最優先する経営へと舵を切るべき時です。それこそが、日本経済を本当の復活へと導く唯一の王道なのです。
激動する国際社会、日本を支えるもう一つの基軸「日米同盟」の行方
企業が生き残りをかけて人づくりに邁進する一方で、国家の安全保障もまた、深刻な転換期を迎えています。日本の外交・安全保障の根幹である「日米同盟」は、我が国が他国と結ぶ唯一の軍事的な絆です。1960年の発効以来、一度も改定されていない「日米地位協定」に基づき、日本は国内の米軍基地周辺で生じる様々な課題や不満を抱えつつも、多大な駐留経費を負担してきました。2019年には事故現場への立ち入りに関する運用の見直しが行われましたが、沖縄をはじめとする現場の負担軽減は依然として重要な課題です。
さらに、米国がかつてのような国際的なリーダーシップから距離を置き始める中、日本は「自由で開かれたインド太平洋」という構想を主導し、英国やオーストラリア、インドといった諸国との「準同盟関係」の構築を急いでいます。2013年に策定された「国家安全保障戦略」を基軸に、日米安保という揺るぎない土台を補完しながら、多角的なネットワークを広げる戦略が求められているのです。企業における人材への投資と同様に、国家の安全保障においても、未来を見据えた賢明な投資と関係性の強化が試されています。
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