総合商社がこれまでの枠組みを越え、新たなステージへと突き進んでいます。三菱商事は中部電力とタッグを組み、オランダの電力大手であるエネコ社を買収する方針を固めました。投資額は約4000億円にものぼり、欧州での発電から小売りまでを網羅する巨大な電力ビジネスへと本格参入します。これまでのトレーディング主体のビジネスから、自ら現場を動かす「事業経営モデル」への転換を目指す垣内威彦社長にとって、今回のディールはその象徴と言えるでしょう。
現在、世界のエネルギー産業は劇的な変化の真っ只中にあります。地球温暖化対策の切り札とされる「再生可能エネルギー(太陽光や風光など自然の力で生み出すクリーンな電力)」が台頭する一方、これまでの主役だった大規模な火力発電所によるビジネスは苦境に立たされています。さらに、再エネへの政府補助金が減額され、長期の売電契約を結ぶチャンスも減少傾向にあります。こうした荒波を好機と捉え、自ら電力会社に変身して市場を切り拓こうとする同社の決断には驚かされます。
SNS上では「商社が海外のインフラを丸ごと動かす時代が来た」「日本の再エネビジネスにもこのノウハウが還元されてほしい」といった、期待に満ちた声が数多く寄せられています。今回の買収先であるエネコ社は、オランダやベルギー、ドイツなどで約600万件もの顧客契約を持つ超有力企業です。三菱商事はこの強固な顧客基盤を武器にして、消費者の生のニーズを素早く汲み取り、地域に散らばる小さな発電設備を賢くつなぐ「分散型電源」などの次世代サービスを強化していく方針です。
こうした最先端の取り組みを加速させるため、同社は2020年4月に抜本的な組織改革を断行します。従来の縦割り組織を打破し、食料流通のDX(デジタルトランスフォーメーション/IT技術を駆使して社会やビジネスをより良く変革すること)といったプロジェクトごとに、組織の壁を越えた精鋭集団を立ち上げます。チームリーダーに人事権を与える大胆な試みも検討されており、次世代を担う強力な経営人材の育成を同時に進める仕組みは、非常に合理的で今の時代にマッチしていると感じます。
しかし、この壮大な挑戦の先には厳しい現実も待ち受けています。世界的な景気減速の影響を受け、三菱商事の2020年3月期の連結純利益予想は、従来よりも800億円低い5200億円へと下方修正されました。これにより、2022年3月期に掲げる純利益9000億円という高い目標の達成には、黄色信号が灯ったと言わざるを得ません。どんなに素晴らしい産業構造の改革であっても、しっかりと利益が伴わなければ持続は困難であり、市場からの信頼も得られないでしょう。
筆者の視点として、今回の巨額買収は日本のエネルギー産業全体の未来を占う試金石になると考えています。ただ電力を売るだけでなく、蓄電池や次世代モビリティと連携した新しい価値を生み出せるかどうかが成功の鍵です。厳しい業績予想を跳ね返し、志を同じくするパートナー企業をさらに巻き込んでいくためにも、まずは欧州の地で早期に具体的な成果を証明することが強く求められます。商社のプライドをかけた変革の果実が実る瞬間を、世界がじっと注視しています。
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