2019年5月28日の米株式市場は、前週末比0.92%安の2万5,347ドル77セントで取引を終え、反落しました。この株安の主な原因は、トランプ米大統領(当時)の「米国は(中国と取引する)準備ができていない」という発言により、米中貿易摩擦が長期化するのではないかという懸念が市場全体に広がったことです。さらに、安全資産である米国債への資金逃避による米長期金利の低下が、利ざや縮小を懸念した金融株の下げを誘発し、市場全体の重荷となりました。
この不安定な市場の中で、ソフトバンクグループ傘下の携帯通信4位スプリントと3位TモバイルUSの巨大合併の行方に、投資家の熱い議論が集中しています。米連邦通信委員会(FCC)のパイ委員長が2019年5月20日に合併承認を委員に提言してから1週間ほどが経過しましたが、この提言にもかかわらず、アナリストの多くは承認の可能性を5~6割程度と、依然として慎重な見方を崩していません。その背景には、この合併を阻む二重の障害が残っているからであると言えるでしょう。
第一の障害は、米司法省の反トラスト局トップ、マカン・デルラヒム局長の存在です。この合併にはFCCと司法省の両方の承認が必要となります。デルラヒム局長は、かつて通信大手AT&Tによるメディア大手タイムワーナーの買収計画に対して訴訟を主導し、結果的に敗訴したという経緯があります。この過去の経緯から、同氏には**「予測不能な行動を取る局長」という評価がつきまとっています。欧米メディアでは、FCCのパイ委員長が承認意向を示す前にデルラヒム氏と事前調整したという報道も流れましたが、司法省がFCCと異なる結論を出せば、二つの政府機関が裁判で争うという前代未聞の事態に発展しかねません。
通例では、反トラスト局長がこのリスクを冒す可能性は低いとされますが、「予測不能なデルラヒム氏」の動向が、経験豊富なアナリストたちでさえ次の一手を読み切れずにいる理由です。SNS上でも、「デルラヒムの動向次第」「彼は前例を打ち破るかもしれない」といった、トップの個人的な判断が巨大M&Aの成否を左右することへの関心と懸念が混じった声が多く見受けられます。
第二の、そしてより深刻な障害は、州当局の動きです。特に、民主党幹部が州政府を握るカリフォルニア州などでは、この合併によって競争が減少し、低所得者層へのサービスが低下するのではないかという懸念から、合併に反対する意見が根強くあります。合併承認の権限はFCCと司法省にありますが、各州政府は連邦政府の決定を不服として合併阻止を求めて提訴することが可能です。
訴訟となれば、合併の可否は裁判所の判断に委ねられることになり、結論が出るまでに数年かかる可能性が出てくるでしょう。次世代の通信規格である5G(第5世代移動通信システム)ネットワークが立ち上がり、市場での主導権争いが激化する「今」というタイミングで合併したいTモバイルとスプリントにとって、訴訟の長期化は致命的な遅延を意味します。著名アナリストが指摘するように、合併断念という最悪のシナリオが浮上する懸念もあり、「FCCからの承認獲得は、実は一番高いハードルではなかった」という現実が、この巨大M&Aの前に立ちはだかっていると言えるでしょう。
私自身の意見としましては、このTモバイルとスプリントの統合の行方は、単に通信業界の勢力図を変えるだけでなく、5Gという次世代インフラの整備スピードにも直結する、国家的な課題であると認識すべきです。通信市場の競争促進と、5Gというイノベーションの加速という二律背反の課題**を、司法省と州当局という「二重の壁」がどう乗り越えるか。このM&Aは、米国の規制当局の判断能力と、グローバル競争における国家戦略のあり方を問う、重要な試金石となるに違いありません。
コメント