長年にわたりお茶の間の主役だった「テレビ」の存在価値が、いま大きな転換期を迎えています。2020年4月からはNHKが番組のインターネット同時配信を開始する予定となっており、メディアの勢力図が塗り替えられようとしています。かつてのように「電波を受信して専用の受像機で見る」という固定概念は完全に崩れ去り、いつでもどこでも好きな端末で映像を楽しむライフスタイルが当たり前になるでしょう。
数年前の平昌五輪の際には、試験的なネット配信によってオフィスや外出先からスマートフォンで熱戦を応援する光景が見られました。このとき多くの人が、場所に縛られずにリアルタイムの感動を共有できる便利さを実感したはずです。SNS上でも「仕事中にスマホで応援できて最高だった」「テレビがなくても五輪が見られる時代が本当に来た」といった喜びや驚きの声が、当時から数多く投稿されていました。
特に若い世代の間では、日常のエンターテインメントが定額制の動画配信サービスへと急激にシフトしています。その代表格であるネットフリックスは、世界中の映画ファンを魅了する独自コンテンツを次々と連発してきました。さらに日本国内では、国民的アイドルグループ「嵐」の活動休止へ向けたドキュメンタリー番組を独占配信するというニュースが、エンタメ業界に大きな衝撃を与えたのは記憶に新しいところです。
これまでネット展開に慎重だった大手芸能事務所の所属アーティストが、地上波を飛び出して配信限定番組に登場した意義は極めて大きいといえます。若者たちにとって、これらは間違いなく「テレビ番組」と同等の価値を持つ作品です。しかし、それを視聴する画面はリビングの大型モニターではなく、自分たちの手元にある小さなスマートフォンへと完全に置き換わっているのではないでしょうか。
企業マーケティングのパラダイムシフト
このような視聴行動の変化は、企業のプロモーション戦略にも劇的な影響を及ぼしています。若者がリアルタイムで地上波放送を見なくなれば、従来のテレビCMによる大量認知の獲得という必勝パターンは通用しなくなります。さらに厄介なことに、人気の配信サービスには広告枠が一切存在しないため、資金力に物を言わせてお馴染みのCMを流し込むという手法そのものが使えないのです。
電通が発表する「日本の広告費」の予測データを見ても、ついにインターネット広告費が地上波テレビ広告費を追い抜く歴史的な逆転劇が確実視されています。私は、この現象を単なる媒体の交代ではなく、「伝えるべき相手に届けるための手法」が根本から変化した証拠だと考えています。これからの時代は、受動的な視聴者に広告を浴びせるのではなく、能動的なファンに寄り添う施策が必要です。
2020年代は、視聴者にとっても広告主にとっても、「テレビ」という言葉が意味する定義そのものが完全にアップデートされる激動の10年間になるでしょう。ただ番組を見るだけの箱から、ネットと融合したマルチデバイス対応のコンテンツへと進化する瞬間を、私たちは目撃しています。企業は一刻も早く従来の手法から脱却し、デジタルネイティブ世代の心に刺さる新しいアプローチを模索すべきです。
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